『今日からこのクラスの担任になりました。名前は山本と言います。先生も皆と一緒にあと2年でこの小学校を卒業します。楽しい思い出をたくさんつくりましょう』

短い挨拶が終った後、名簿順に名前を呼ばれた。呼ばれた生徒は手を挙げて立ち上がり、軽く一礼をしてから座った。

始めはそうだった。
でも、その時の先生の目が真剣で、1日でも早く名前と顔を一致させたいという熱意が伝わってきた。それを最初に感じ取ったのは西山君で、先生に何かを伝えようとしていた。

『どうした西山?もう、座って良いぞ?』

『俺‥』

『ん?』

『俺‥すっげー頭悪いし、先生に迷惑かけるかもしれないけど‥残り2年しかないし‥だから‥よろしっくす‥です』

頭は下げなかったけど、上半身を前に出してから座った。その態度に少し困惑していたけど、一言添えてくれた事には喜んでいた。その後の人も西山君に影響されたのか、好きなスポーツや教科などを伝えてから座るようになった。西山君の勇気ある行動が、山本先生との距離をぐんと縮めてくれた。


『みんなありがとな。これで少しみんなの事が分かったよ。あっ、そうだった』

突然思い出したようにポケットから1枚の紙を取り出し、全員の視線を集めた。

『堀内先生から手紙を預かってたんだった。1回しか読まないからよく聞いているように』

ゆっくりと読み始めた。
じっと声に聞き入っていると、次第に堀内先生の声が蘇ってきた。まるで堀内先生が読んでいるようで懐かしかった。

”みんな元気か?お前らのことだから新しい先生を初日から困らせてないか、それだけが心配だ。前学級長・副学級長、その辺はお前たちがしっかりまとめろよ。

高学年というのは、兄弟で例えたら長男と長女に当るんだ。だから、可愛い後輩の面倒はしっかりみろよ。それから、修学旅行とかあるけど枕投げは程々にして早く寝ろよ。じゃあな”

『だそうだ。堀内先生と修学旅行に行ったら、一緒に枕投げして楽しんでそうだな(笑)
この手紙、黒板に貼っておくから各自見とくように。ホームルームは以上で終わりだ』

今日は授業もなく、あっという間に1日が終った。