『えっと‥あっ、そうだ!そうだよ!!よく私が屋上にいるって分かったね。誰にも気付かれてないと思ってたんだけどな~。いつから知ってたの?』

『いつからって‥最初からだけど。鍵パクッテルのも知ってる』

『‥う、嘘~!!?』

『本当。って事で、今度授業サボる時にあの場所借りるから』

『う、うん‥』

頭の中が混乱してて、それ以上何も言えなかった。服の袖を掴んでいる事さえも、すっかり忘れていた。そのことに気付いたのは、保育園児が私たちを指差して叫んだ時だった。

『ねぇ~ママ、あの2人って何してるの?』

『こらっ、そうやって指差しちゃダメっていつも言ってるでしょ』

『ごめんなさい‥それで、あの人たちは何をしてるの?』

『何ってデートしてるのよ』

『ふ~ん。じゃあ僕達どっか行った方がいいのかな?』

『そうね。お家に帰ろっか』

『うん、僕もママと手を繋ぐ!!』

保育園児とそのお母さんと思われる人は、嬉しそうに手を繋いで私たちの視界から姿を消した。

今のって‥私たちの事を言ってたのかな。デートとか手を繋いでるとか言ってたよね?

まさか‥ね?

恐る恐る右手を見ると、しっかりと俊チャンの服の袖を掴んでいた。

『ご、ごめん!!』

パッと右手を離して後ろに隠した。

『‥‥‥いいえ』

俊チャンは自由になった右手の指を見つめていた。

『あのさ‥』
『行くか』

『へっ?』

『練習だよ。そろそろ行かないと遅刻するんじゃね?』

『あ~うん‥そうだね。行こっか‥』

俊チャンと肩を並べて歩き出した。


練習会場に着くまでに何度か右手を見つめた。さっきまでの事が嘘なんじゃないかとも思ったけど‥指先の感覚は確かに残っていた。

事実なんだ。

練習前から体が火照ってきた。いつしか、走った後くらいの湯気が体から出ていた。