『ごめん、華代。今すぐやるね』

蛇口を捻り如雨露に水をいっぱい入れた。

『よし!』

持ち上げる前に気合を入れてから取っ手を両手で掴んだ。よたよたと歩く私の姿を、華代はコンクリートに腰を下ろして見ていた。

『ねぇ~結』

『ん?』

振り向かなかったけど、耳はちゃんと華代に傾けた。

『鳴海君のこと「悠君」って呼ぶの止めたら?』

『何でそんなこと言うの?』

『何でって‥結こそ何で下の名前で呼ぶようになったの?あの日、断ったんじゃなかったの?』

『うん、断ったよ。それから今まで通りいい友達でいようねって約束もした』

『じゃあ今までどおり鳴海君で良いじゃん!呼び方かえなくても‥』

『う~ん。そうかもね‥でもこの呼び名定着しちゃったし今更って言うか‥』

『結さ~‥』

『ん?』

水遣りが終わったので、如雨露を持ったまま華代の横に座った。

『気にならないの?俊君のこと』

『えっ?何で俊チャンが出てくるの?話が見えてこないんだけど』

華代は一度教室の中を見てから続きを話した。

『俊君‥結と鳴海君が話している姿、たまに見てるよ』

『うそ!!』

その場に立ち上がって教室の中を見た。でも俊チャンの姿はなかった。

『私、俊君の隣の席じゃん。無意識のうちに視界に入ってるっていうか。だからさ、あまり2人で話さない方がいいんじゃないかな?』

『でも‥悠君とは隣の席だし。それにね、ほら!和樹君も会話に入ってくるから2人きりでっていうのはあんまりないし』

『和樹ってさ、後ろ振り向かないで話に入ってこない?それって、私たちの位置からは結と鳴海君の2人で話しているようにしか見えないんだよね』

『そんな~‥』

体の力が一気に抜けて、その場に座り込んだ。