私の返事に鳴海君は満足そうだった。何がそんなに嬉しいんだろう?今の私は‥喜怒哀楽といった感情を失いかけていた。


しばらくすると、思い出したように「ヤバイよ!!」と華代が言った。何がヤバイのか分からない私たちはポカンとした顔で華代を見つめた。

『ねっ!2時間目って‥もう始まってる‥よね?』

『『‥‥あっ!!』』

急いで校庭に向かって走った。でも、10分の遅刻は先生の逆鱗に触れた。

鳴海君に関しては、転校初日から罰を与える訳にはいかないという理由から、他の班に混ざって体育の授業を楽しんでいた。でも、残された4人は外周10周の命令を受けた。

一言も話さず10周が終わり、やれやれと思ってベンチに座ると、今度は俊チャンと華代だけが呼ばれた。そして、遠くの方で長い説教を受けていた。クラスをまとめる係って本当に大変だなと思いつつも‥俊チャンと距離を置く事が出来て、少しホッとしている自分もいた。


すると、隣に座っていた和樹君が呟いた。

『ごめんな』

『えっ?』

『イヤ‥俺が全部いけないんだよな。本当にごめん』

何に対して謝っているのか私には分からなかった。

『遅刻したことなら、みんなの責任だから和樹君一人の‥』

そこまで言うと、和樹君が笑い出した。

『よかった。いつもの桜井に戻ってる』

『何?いつもの私って‥どんな感じなの?』

『そりゃあ、天然ボケだろ』

『酷い!!華代に言いつけちゃうからね』

笑うと頬が痛かった。
なんだか何年も‥何十年も笑っていなかったみたいに思えた。


『俊‥』

その言葉に体が敏感に反応した。

『俊から離れないでやってな』


俊チャンとの距離は他の女の子よりも、ずっと近い方だと思っていた。でも本当は‥私が一番遠いのかもしれない。

ベンチの壁に頭をつけて、今にも降り出しそうな灰色の雲を眺めていた。