『そうだよ!俊チャンの言うとおりだよ。私、俊チャンの彼女じゃ‥ない‥よ。ただの‥』

それ以上言えなかった。ううん、言いたくなかった。ここで「ただの幼馴染だよ」そう言い切ってしまったら、一生その肩書きを背負うことになりそうだったから‥。


俊チャンの事が好きだから‥だから、いつか華代と和樹君みたいな関係になれたらいいな。

ずっとそう思っていた。
でも、さっきの俊チャンの口調からして、それも夢のまた夢なんだって事に気付いてしまった。


一人で悲しんでいると、誰かが私の前で止まった。上履きを見ても誰の足なのか検討がつかなかった。零れ落ちそうだった涙を必死で戻し顔を上げると、鳴海君が私に向かって微笑んでいた。

『どうしたの?』

自然な笑顔に少し癒された気がした。

『俺さ、結チャンの事‥』

そこまで言うと、和樹君が止めに入った。

『ちょっと待て!!今、桜井の事何て呼んだ?』

『えっ!?結チャンって言ったけど、それが何?』

和樹君は俊チャンを見た。
でも俊チャンは、自分には関係ないというオーラを放ち何も言おうとはしなかった。その態度に気付くと、今度は華代に助けを求めた。華代は黙って首を横に振った。暗黙の了解が終わると真剣な眼差しを鳴海君に送った。


『桜井の事を結チャンって呼ぶのはやめろ』

『何でだよ!?』

突然の言い掛かりに少し苛立っているのが分かった。

『それはだな‥』

和樹君は何を言えばいいのか考えた。だけど、どれもよくないような気がして、結局そのまま黙っているだけだった。すると、痺れを切らした俊チャンが何かを言いかけたとき、鳴海君の「分かった」という声が廊下に響いた。


『桜井さんの事、結さんって呼んでも良いかな?』

初めての呼び名に最初は抵抗があったけど、俊チャン以外の人に「結チャン」と呼ばれるよりは全然良かった。だから

『‥‥いいよ』

そう短く返事をした。