『鳴海‥君?』

名前を呼ぶと慌てて手を緩めた。その隙に自分の手を体の後ろに回した。私の一連の動作を見ているうちに、正気に戻った鳴海君は「ごめん!!」と謝ってきた。

本気で謝っているのが伝わってきたので、「もういいよ」と言ってこの件は終わりになるはずだった。なのに、和樹君がこの話題を掘り下げ始めた。


『悠、桜井はやめておけ。俊に怒られるぞ!』

『おい!俺は別に‥』

俊チャンは和樹君の口に手を当てて、それ以上何も言わせないようにしていた。すると、

『大丈夫だよ!』

突然、鳴海君が大きな声を出したので、私たち4人は驚いて動きが止まった。


『あぁ、ごめん突然大きな声出して‥でも、本当に大丈夫だよ。俺、和樹の彼女にも、俊の彼女にも手は出さないから安心して』

3人が立っている方に向かって言っていたので、鳴海君がどんな顔でそう言ったのか分からなかった。でも、声はさっきまでと明らかに違う。何だか少し切なそうだった。

気になった私は、3人が立っている場所に合流しようと思い、右足を一歩前に出した。すると、俊チャンが小さい声で言った。

『‥‥じゃない』

誰の耳にもその声は届かないくらい小さい声だった。異変に気付いた和樹君は、俊チャンの右肩に手を乗せて、いつもみたいに冗談半分で「急にどうしたんだよ」と聞いた。すると今度は皆に聞こえるくらいの声で言った。

『彼女じゃない』

私にもしっかり聞こえた。


”カノジョジャナイ”

そんな事分かっていたけど、こうやって面と向かって言われると失恋したのと同じ感覚だった。

4人はどんな表情で誰を見ているんだろう?

怖い‥怖いよ‥

思わず下を向いた。
そんな私の異変に最初に気付いたのは華代だった。


『ゆ‥い?』

ここで動揺したら皆に迷惑がかかる。普通でいよう、普通にしよう。そう自分に言い聞かせて明るく振舞った。