「ママンはなんで日曜が来るたびに不機嫌になるの?」
聖夜の問いに、父大樹は、困った顔で振り向いた。
「それは、美味しいクロワッサンが食べられないからだよ」
「クロワッサン?」
「そうだ。あの三日月型した、あのパンさ。
全く、この日本でフランスの味を求められてもなぁ。
父さんも困ってるんだ。
どうしたもんか、なぁ、聖夜」
フランスでは、日曜の朝、焼きたてのクロワッサンとカフェ・オ・レを用意して、夫が妻を起こすのが習慣なのだそうだ。
そうやって日曜の朝、愛する夫に起こされるのが、妻としての最大の賛辞、幸せの証。
日本に来てからも、大樹は毎日曜、妻をクロワッサンとカフェ・オ・レの朝食で起こしていたのだけれど。
ここは日本。
どうしても完璧な幸せの味を再現できずにいた。