苦しみを言葉として発した聖夜は、ジャックを前に少しずつ自分を語り始めた。


美留久との出会い。

二人の関係。

家族のこと。


幸せだった頃の記憶を沢山思い出すことで、聖夜は心の平安を少しずつ大きくしていった。

学校にも通い出し、学問には身をいれて取り組んだ。

相変わらず、他人との関わりには慎重ではあったが、彼の生活は少し他人に臆病なごく普通の若者と区別がつかないほどに回復していった。

長期の休みを利用し、顔の傷を目立たなくする整形外科手術も行われた。

その傷は他人の興味も惹いたが、彼に過去を思い出させるのに十分だと判断されたのだ。

傷が一つ消える毎に、聖夜の心の傷も一つ癒されていくように見えた。


だが、まだ何かが足りなかった。


聖夜が自分を肯定し、受け入れ愛するためには、何かが足りなかったのである。