「聖夜、

物事には全て表と裏がある。

君の苦しみの裏には、必ずそれを打ち消す喜びや幸せがあるはずだ。

だから、今は、苦しみのことは忘れて、

一緒に、その喜びを、

君が幸せだった頃の記憶を、思い出してみようじゃないか」


と、その男は言った。

聖夜の頭に浮かんだのは、幼い美留久の笑顔。

その笑顔に一目で魅了された、遠いあの日のことを思い出していた。


「僕と美留久が出会ったのは、僕らが八歳、小学二年の夏の終わりのことでした」


聖夜は記憶の糸を手繰り寄せるように、そう話し出した。


「僕は両親の仕事の都合で、夏も終わろうとしていた九月の末、日本にやってきました。

季節外れの転校生として、美留久のクラスに、先生に連れられていったのです」