ウシの店は、見た目はパッとしないが混んでいた。もしかして、案外うまい店かもしれない。

拓也が煙草を吸いながら、店員に待ち時間を聞く。

「優ちゃん、15分で案内してくれるって」

「そっか。よかった」


実際には、プラス5分で20分待つことになった。

ペラペラの長方形のテーブルは真っ赤に塗られて、焼肉屋より中華料理屋のようだ。

「とりあえず、僕ビール飲みたい。あと、カルビとロース2人前ずつと野菜焼きでいっかな」

「そうだね。あと、俺ウーロン茶とキムチも欲しいわ」

「すみませーん!」
拓也は、まだ水も運ばれていないが店員を呼んで、ササッと注文を済ます。

「あー。おなかすいたね」
「ごめんね。どーしても根岸さんにデータ送る約束でさ。優ちゃんのほうは仕事どうなのよ」

「今の商談決めたら、また人を増やすよ。今度、西野副社長と父さんとで話し合うけど」

「じゃ、順調じゃん」

「うん。まあね」

「何か浮かない顔してるよ。てか、顔色緑っぽいけど」

会話する二人のテーブルに飲み物とキムチが運ばれた。

「そうね。浮かないね。目の前の仕事は難航してるけど、会社づくりって観点からすると順調。ただ、なんか疲れたよ。いまのクライアントの仕事で寝不足なのかな」

「ふーん。あ、キムチ辛さ調度いいよ」

「あ、ほんとだ。なんか、僕も拓也みたいに好きなこと思い切ってやればよかったな」