とにかく、自分を奮い立たせるんだ。


優也はぐるぐると思考をめぐらせた。



僕が、どれだけ速く走れるかが重要なんだ。ぐったりして、どうするんだ。優也は自分を励ました。

でも、本当は
僕、会社の規模拡大はもちろん、自分が携わっている仕事に喜びを感じられなくなっている。

自分の気持ちに正直に生きる拓也。弟のアーティスティックでスマートなファッションや暮らしぶり、来年先輩の紹介で入るレーベルなど、すべてが羨ましい。

それに加えて彼女の彩花。彩花は研究一筋。泊まり込みは日常茶飯事で、大変そうなときはしょっちゅうだけど、
彼女はいつだって輝いてる。

そして、僕は……

いろんな仕事を任されて、若いのに恵まれた環境だね、なんてクライアントや友人に言われこそすれ、何だか全然輝いてない。磨耗してる感じだ。

でも、僕は長男。そして、父はきっと僕に期待してるはず。
だからこそ、父は僕をバシバシしごく。

そんな、毎日。最初の数年はよかった。修行だってことで。
ちょうど、彩花も大学院へ入りたて。
ふたりとも、これからだねってことで、ひたすらに走ってた。

彩花は、
ただ僕が彼女を好きだから輝いて見えるのでなく、
実際に輝いてる。
努力も実って、より活躍できる場所へ研究室を移した。

僕は、メンバーと一緒に会社を大きくしようと頑張ってる。
でも、事が大きくなるにつけ、僕は会社を大きくすることにも、コンサルティング業にも興味が持てない自分に気づく。
誇りももてない。
たまに「先生」なんて呼ばれると、
プレッシャーを感じて、
この職業のもつ意味を肌に感じて逃げ出したくなる。
同僚は接待の席で「先生」と呼ばれると嬉しそうだ。
パブの女の子に名刺を渡す

その名刺に「コンサルタント」の文字が入っているのを格好いいと思ってる。

僕も、それぐらい気楽な性格だったら、この仕事を楽しめたのかな。

僕は僕のしていることを愛せないから、輝いていない。頑張っても、自信がもてない。

彩花は、僕のどこを好きなんだろう?