「あ、おかえりー」

「ただいまー。マジ、疲れた。拓也、夕飯もう済んだ?」

優也は玄関で革靴を脱ぐなり、スーツをはぐように弟の部屋の半開きの扉を押し開いた。

「相変わらず、すごい部屋だね拓ちゃんの部屋」

「うん。ここんとこ、根岸さんに頼まれた曲づくりに追われてて片付ける暇なかったんだ」

拓也は大きなヘッドフォンを首にぶら下げて、パソコンに向かって打ち込みをしている。

部屋中に、生まれたての音楽が流れている。

幼い頃から、同じような曲を聴いて育ったせいか、遺伝的なことによるものか分からないが、優也は拓也の生み出す音楽が好きだ。

男同士で気持ち悪い気もするが、拓也の音楽が聴こえると優也は子宮のなかで母親に守られているような安心感に包まれる。