これは、きっと夢に違いない。
だいたい、夢じゃなきゃ困るって。僕、ベッドで眠りたい。疲れてるんだってば。

500メートルほど走ったところに両端が見えないほどの壁があった。

高さも随分あって越えられない。

まあ、草原みたいだし、ここで一休みしよう

優也は寝転んだ。

「なんだ、空もセピア色なんだ」

こんなに走ったのは学生の時以来だなぁと、坂の下に広がる雑多な街を見下ろして優也は少しだけさわやかな気持ちになった。

頭のしたに組んでいた腕をほどいて大の字になる。右手を見ようと首をひねると、セピア色の猫がいる。

「こっちへ、おいで」

ニャ、と小さくないて猫は優也にすりよった。   

撫でると寝転んで腹を出した。

次の瞬間、猫は再びニャと鳴くと優也の手に噛み付いた。

「痛っ。こらこら、噛んじゃだめだよ。離して」

猫は離すどころか、噛む力を強めていった。力を込めるせいで、猫の鼻には皺がより、牙が大きくなって優也の手に穴をあけた。

手が解放された時には、芝生に血がポトポト落ちていた。猫の後ろから、さっきの女たちの縮小版が表れて優也をケタケタ笑っている。

優也は頭にきて、そのうち一人をつまみ上げて、マリモのような髪の毛をむしりとって、顔面にパンチをくらわせた。

顔面はつぶれて円形に広がりせんべいほどの大きさになったと思ったら、気付くと小さな女は手鏡になっていた。

鏡に映る優也の頭にはキノコのようにマリモがくっついていた。

「もう、いい加減にしろよっ」

優也は頭を掻きむしってマリモを取り払おうとした。
マリモは指にまつわりついて、紐のようにのびて優也の全身にまつわりついて、縛り上げた。

身体の自由も視界もさまたげられた優也は、なんとか、ほどこうと両腕にめいっぱい力を入れた。

その間もマリモは延び続けてしめつける力を強め続ける。

やがて、優也を中心とした巨大なマリモとなり、それは坂を転がりだした。

優也は段々と増す回転数に絶え切れず失神した。