「ここがどこか知りたいのかい?お兄さん」

「ええ。僕、訳が分からないです。それに土曜日に彼女に会いに行く約束してるから、家に帰りたいんです」

「へえ。恋してるんだ」

同じ顔をしてても、皆荒々しい言葉づかいではないんだ、と優也は少しほっとした。

「まぁ、恋というか、まあ、好きです。だから、ここがどこなのか教えてください」

「知ったことで、お兄さんがどうなるか私は責任もてないけど、それでも知りたい?」

「ええ。ですから、僕は土曜日までに彼女に会いに行く約束があるから、ここがどこか、どうやって日本に帰るか教えてもらえると助かります。むしろ、教えてもらえないと困るんです」
「分かったよ。お兄さんが知りたいっていうんじゃしょうがない。ここはあの世とこの世の境にある永遠の国だよ」

「はい?ちょっと、よく分からないんですが……」

「だから、永遠の国だよ」
「……」

「要はお兄さんは、生と死の狭間にいるんだよ。よく言うでしょ、そっちの世界でも臨死体験とか」

「ええ、まあ……」

「で、あっちの世界で惜しまれて死んだ者や命を粗末にした者、極悪非道なことをした者が永遠の国にステイする」

「生意気ですが、僕はここに住むようなことはしていません。何かの間違いじゃないですか?」

「間違いでも仕方ない。来ちゃったから。この国で死んで葬式してもらったら、新しく生まれ変わるかもしれないし、あの世に行くかもしれない」

「そんなぁ。じゃ、僕死にかけてるか死んでるってことですね」

「そうそう」

優也は信じなかった。

質問した女以外は、優也がぶつけてしまった石からはじまった論争を繰り返してマリモを投げ合ってアザだらけになっている。

一体、僧侶は何をしているんだろう?

とにかく、ここは危ない。
優也は女に礼を言って、喧騒を背に街の外れて思われるほうに走った。