「ごまかしてんじゃねぇよ。人が死んでるのにサタデー・ナイト・フィーバーなんか踊ってる場合なのかよ」

数分前まで、この世の終わりのように泣き叫んでいた女の一人が怒鳴った。
たぶん、隣の女が言っても多分見分けられない。

「失礼しました」
優也は丁寧に謝って頭を深々と下げた。

「痛っ」次の瞬間、優也は後頭部に激痛を覚えた。痛くて路面に倒れた。横を見るとマリモがころがっている。

頭を抑えながら見上げると、先程優也を怒鳴ったと思われる女がツルツルの頭を光らせて、優也を睨みつけている。

マリモは必要に応じて取り外し可能なようだ。
そして、髦質は日本人と違って非常に固い。頭にぶつかるとタンコブができるほど。

「すみませんでした」
優也は再び謝った。

「痛っ」

今度は額に激痛が走る。
頭を抑えてのた打ちまわる優也の視界に、さっきとは別のマリモがころがっている。

見上げると、またツルツル頭の女が優也を見下ろしている。
さっきの女と見分けがつかない。

「すみませんで済むんなら、警察なんかいらないだろうが。違うのかい、兄ちゃん」

「おっしゃる通りです。ちゃんと旅行ガイド読んでくるべきでした」

優也は右に強い視線を感じて反射的に前に立つ女を盾にした。マリモは女に命中した。

「どこに目つけて、髪の毛投げとんじゃわれぇー」

マリモをぶつけられた女はマリモを投げつけた女を罵倒した。

(怒りが僕に向かわなくてよかった)優也は盾にした女につかまりながら、少しほっとした。

「そいつは、よそ者みたいじゃないかい。それを髪の毛投げ付けたら、この神聖な儀式に反するだろぉが。いまは亡き者を見送るときじゃねぇか」

「そうだ、そうだ」

皆、一斉に共感して、マリモを地面に投げ捨てた。マリモは、喜怒哀楽を表すのに幅広く使われているようだ。

優也は盾にした女から離れて、興奮してツルツル頭になっている人々のなかから冷静な人を探した。

(顔が皆同じだと探すのが大変だ)

「すみません、僕は日本から来たんですが、ここはどこですか?日本語は通じるみたいだけど……」