優也は、北朝鮮に似た雰囲気の知らない国にいる。

ニュースの特集で見る国民の困窮した生活のまっただなかを歩いている。   

老若男女問わず、皆、泣きだしそうな痩せこけた顔をしている。

街はデジタルカメラの色調をセピアに設定したように、鮮やかさに欠けている。緑とも茶ともつかない色だ。人々の肌の色も、街と同じ系統の色をしている。

そこら中で合同の葬式が行なわれて、激しすぎるくらい渦巻いてマリモのようになったパーマをくしゃくしゃに掻きむしって泣きじゃくる女たち。この国の流行のヘアスタイルらしい。

日本でいうとハンカチで目尻を抑えるどうさが、頭を掻きむしることに当たるようだ。

あまりに激しい泣き方に優也は共感のしようがなかった。加えて、千人近いと思われる女たちが一斉にマリモ頭を掻きむしる音に不快感を覚えた。

一人ひとりの口にマリモを詰め込んで黙らせたかった。

マリモなんかじゃ甘いんだよ
もっとクルクルを激しくしてアフロにしてさ、サタデー・ナイト・フィーバーみたいに踊ればいいんだよ

優也はつぶやいて、小石を蹴った。

蹴った小石は運悪く祭壇の中央にまつられる故人の笑顔に輝く金歯を直撃した。
僧侶の唱えるお経が止んだ。
女たちは泣き叫ぶことも、頭を掻きむしることも止めた。

皆の視線が石の飛んできた方向を探っている。

迷彩とボロ布を組み合わせたホームレスのような礼服をまとった人々のなかで、Tシャツにジーンズ姿の優也は目立ち過ぎる。

石を飛ばした人間を突き止めるのに1分とかからない。

皆の視線が一斉に優也に注がれる。
その時になって、優也はようやく気付いた。僧侶以外の人々の顔の造りが皆同じだということに。
瞳の色はアジア人らしいのにくすんだブルー。
輝きのない目が優也を刺すように真っすぐ見ている。
流した涙が石になって、地面に落ちる音が聞こえる。
優也は、薄気味悪くなってなにか喋ってみた。

「おかしいな。なんで、僕だけフルカラーで他は皆セピアなんだろう」