初めて会ったのは10年前の事だった
幼稚園年中の春休み。テレビを見ながらゴロゴロしていた
その時、
「ピンポーン」
家のチャイムがなった
「はーい」
母がエプロンで濡れた手を吹きながら玄関のドアを開けた
「すみません。道路の向かい側に引っ越して来た、岩本と申します。あの、宜しくお願いします」深々と頭を下げたその女の人は、母と同じ位で綺麗で背が高く、華奢な人だった
「あっ、周藤と申します。わからない事があったら何でも聞いてくださいね。」
いつになく母が優しく言った
「ありがとうございます。親切にしていただいて。あの…けれ、よろしかったらお召し上がりください」
「あら、わざわざありがとうございます。すみませんねぇ」
母はお菓子が好きな訳で貰った箱の袋が一流菓子屋の物だったので、声のトーンが上がっていた
「いえいえ。ほら、架くんも挨拶しなさい」
お母さんらしき人の後ろに恥ずかしそうに隠れていたのは、私っ同じ位の男の子だった。その男の子は下を剥いたままぺこりと頭を下げた
「ほら、晴香も」
母に押し出された私はぺこりと頭を下げ、その後、男の子と目があった。
話しは盛り上がり、架と言うその男の子は私と同じ幼稚園に入る事になったそうだ。
私はこの時、この『架』とやらのせいで、悲しかったり、苦しかったり、泣いたり、悩んだり、笑ったり、喜んだり、嬉しかったり、感動したりするなんて思ってもみなかった。
幼稚園が始まった
岩本架とは同じクラスだった
私は両親の短所ばかり持って生まれてきた
母の肥満体、父の目が細いところ
特に、太っていて顔がパンパンだったこの時は男子の一部からポケモンの太ったキャラクター「カビゴン」と呼ばれていた
私は好きな男の子がいた
その男の子は私をいじめる訳でもなく、ただ見ているだけだった
私はその男の子にほっぺにキスされた
私は期待した
生まれて初めての恋。
しかし、その男の子は女子皆にやっていた
私の初恋はただの遊びに過ぎないだろう
岩本架も私をいじめる訳でもなくただ遠くからいじめる姿を見ていた
いじめられるのは悲しく、苦しかったけど、大好きな女の子と遊べるのが楽しくて、毎日通った
あっという間に月日は経ち、卒園式を迎えた
そして、小学生になった
岩本架とは同じ小学校
私は初めての小学生に胸をときめかせていたがそんなに甘くはなかった
小学校に上がり、同じ幼稚園だった藤原萌夏と岩本架とは同じクラスだった
というか、たったの1クラスで人数も男子12人、女子15人の計27人だった
藤原萌夏とは普通に「萌夏ちゃん」「晴香ちゃん」と呼び合っていた
しかし、小3になり岩本架と私は「ちゃん」や「くん」で呼び合う事はなく、「さん」という幼なじみとは思えないような呼び方だった
いい始めたのは岩本架の方からだった
いつも通りに「架くん」と読んでいたのに岩本架は「周藤さん」と呼んでいた
私もいつの間にか「岩本くん」と呼ぶようになってしまっていた
小3で変わった事は「さん」で呼び合う事だけではなく、転校生が来たことだ
名前は「白川馨」
私と馨は出席番号も近かった
すぐに私たちは仲良くなった
馨は元気で、可愛くて、細くて、運動神経はいいけどばかで、テンションは毎日高い。だって真冬で雪が降ってるのにベランダに半袖で出る位だもん
馨は皆から好かれた
ある日、岩本架は引っ越した
私たちの唯一の接点であった、「家が近い」という事実はなくなってしまった
苗字も「岩本」から「山崎」とはなった
親が離婚したらしい
引っ越したと言ってもそんなに遠くはなく、転校もする必要がなかった
私は物心ついた頃からある感情を抱いていた
それは岩本…いや、山崎架を好きになってしまった事
私はすぐに自分の気持ちにきずいた
だって今まではどんなに近くに山崎架が居ようが普通に話せたが、今は、近くにいると胸がドキドキして、直視出来なくて、話すたんびに顔が赤くなり、上手く話せないくせに、話して相手と笑いあいたいと思ってしまうんだもん
好きになってから私はきずいた
山崎架の事を狙ってるのは、私だけではなく、クラスの半分以上の女子が狙っている事を
山崎架はまぁまぁイケメン!?かなぁ??でも好きだから何やってもかっこよく見えちゃうんだけど////勉強も出来るし、運動神経だっていい、クールであまり自分から話しかけてくるタイプではない。だけど、たまに優しいなぁって思う時もあるよ
中には、山崎架に振り向いて欲しくてかわいこぶる子もいる
私はその姿を見ていつもイライラしていた
そう…嫉妬していたのだ―。
私達は気付けば小学5年になっていた
私の席の隣は…なんと山崎架だった
席替え当日はめっちゃくちゃ喜んでいてもしかしたら顔に出ていたかもしれない
それを架に見られてたら…なんて考えたらその日はなかなか寝付けなかった
私達は挨拶すらしなくなっていた
ある日、架は教科書を忘れた
架は「ねぇ、周藤さん、教科書見せて」
私な脈拍は一気にあがった
私は「また教科書忘れたのぉ??」と笑いながら言った
そんな些細な一言でも心臓はバックバク
こんなんじゃ心臓いくらあってももたないよぉ
今すぐ爆発しちゃいそう
私達は机をくっつけた
架にとっちゃ私は教科書を見せてくれるだけの相手だけど私にとってはかけがえのない人
架がもし明日死んじゃたら私も死ぬよ
だってそのくらい架が大好きでたまらないもん
架を好きな人はこのクラスに沢山いる
けど、私は、このクラスの中で1番架の事が好きな自信ある
私の目に映ってるのは架だけ
いつも目で追ってしまう
別に追いたくて追ってる訳じゃない
気づいたら追っていたみたいな
でも架の目に映っているのは紛れもなく私じゃないんだよね
なんであの人なの??
そう。架の目に映っているのは白河馨。
可愛いし元気もいいし面白いし、短所なんて馬鹿なとこ位。
そして、夏休みに入るちょっと前位。
ある事件が起きた。
それは、私の大親友の夏川里奈が架とメールしていたのだ。
いろいろと相談を受けているらしい…。
そして、馨ともメールしていた。
相談していたらしい…。
でもそれに気づいたのはもうほんの少したった時だった。
私はその夜、目から沢山のしょっぱい雫を出した。
夜ご飯も喉に詰まるほど…。