「菜都、悪かったな」

さっきまで笑っていたのに、突然、久世玲人は私の頭を撫でながら申し訳なさそうに謝った。


「え…なんでっ…?」

「菜都は、全部喋って、あいつらに罰を与えたかったかもしれねえけど…。俺は、菜都のことが伏せたままでいられるなら、その方が良かった。あいつらが嘘ついてくれてラッキーって」

「久世君っ…」

「悪かった。俺の都合で勝手に決めて、菜都に嘘ついて」


何で…何で、久世玲人が謝るのっ…?謝るのは、むしろ、私の方だよっ…


「ごめんなさいっ…私のせいでっ…」

「だから、何度も言わせんなよ。菜都のせいじゃない」

「でもっ、私のためでしょっ…」

「違う、俺のため」


久世玲人は何度も俺のためって言い張るけど、でもやっぱり、どう考えても―――


私が、傷付かないように。

恐かったことを、思い出さないように。

好奇の目にさらされないように。


―――――全部、私のためって、聞こえる。



「まぁそれに、停学になっても当然なくらい、あいつらをボコったのも事実だし。本当のことを言っても停学になってただろ」


そう言って笑う久世玲人に、また、涙がポロポロと流れてくる。


「ふぇっ…久世君っ…」


また飽きもせず泣き始めると、久世玲人は「……またかよ」と、ガックリしながら苦笑していた。