いつもなら、久世玲人に抱き締められたら、どうにか離れようと慌てふためくけど、今は、どうしてかちっとも離れたいとは思わない。

むしろ、ここにいたい。

安心感を与えてくれるこの腕に、包まれていたい。


背中に手を回して、ぎゅう、と縋るように抱き付くと、久世玲人の体がピクリと反応した。


私を包む腕の力が増し、さらにきつく抱き締め返される。


「……久世君、苦しい」

「知るか」

それでも、離れたいと思わない。この苦しさも、心地いいとさえ感じてしまう。


いつもなら、こんなこと思わないのに。

どうしたんだろ…私…。


久世玲人の肩に頭を預け、ぼぉっと考えていると、「泣きやんだ?」と柔らかい声が降ってきた。


コクリ、と小さく頷き、「……ごめんなさい」と自分の醜態を謝った。


泣き止んだと分かっても、久世玲人の腕は離れない。

今は、それがとても嬉しくて、ありがたかった。



「久世君…教えて…?何で、先生に言わなかったの?」

「もうそれ聞く?」

泣き止んだ途端、早速聞き出そうとする私に、久世玲人は苦笑した。小さく笑っているのが分かる。


「ほんと、ずるい奴」

「……だって、それを聞くために、来たんだもん」


ガンコに譲らない私の言葉に、久世玲人は観念したかのようなため息を吐いた。