私は、近付いてくる様子をただ泣きながら眺めることしかできない。久世玲人が言った言葉の意味も分からなかった。


「ぐすっ…」

相変わらず泣き続ける私を見て、久世玲人は困ったように笑う。


「分かったって、ちゃんと話してやるから」

完全にお手上げ、といった感じだ。


そして、久世玲人は私の隣に座り、ゆっくりと肩を引き寄せながら、ぽすん、と包み込むように抱き締めてきた。


「もう泣くな」

ぽんぽん、と久世玲人の手があやすように私の頭を撫でる。


「まさか、こんなに泣くとは。反則だろ」

相変わらず困ったように笑いながら、久世玲人は独り言のように呟いた。



……私も、同感だ。

久世玲人の前で、こんなに泣くとは思わなかった。

なんでこんなに泣いてるのかも、分からなくなってきている。


なんで、泣いてるんだろ。


ああ………そうか。

久世玲人が、本当のことを言ってくれないから。私に、隠すから。冷たい言葉で、突き放そうとするから。


それが悲しくて、泣いてしまったんだ。


悲しくて。久世玲人に、関係ないって言われたのが、悲しくて。


ぐすっ、と鼻をすすり、久世玲人の胸に顔を押し付けた。服が、涙でびちゃびちゃになろうが、気にしない。


だって、今の久世玲人は優しい。さっきと違って、私を突き放そうとしない。

撫で続ける大きな手は、どこまでも優しくて―――。


その仕草は驚くほど効果があり、あんなにぶわぁっと出ていた涙が、少しずつ引っ込んでいく。


どうしてだろう。


優しい久世玲人の腕の中にいると、心が落ち着いていく。