家に住みついた猫男



気づくと、猫男に叫んでいた。




「私には関係ないって言いたいの?

急に住み着いて...、それなのにあんたの事、知る権利も無いの??

あんたが何者なのか.....分からないんだよ...?」





心がグシャグシャかき乱されて、


胸が苦しくなって





涙が出てきた。




―――「私、あんたの名前さえ知らない」




ポツリと、



静かになったリビングに、私の声が聞こえた。



―――――――――
――――――
―――

猫男の顔を見ると、怒っているのか、悲しんでいるのか分からない顔をしていた。




傷...つけちゃった.....?




そう思うと急に怖くなって、目を瞑る。






――――その途端、体が暖かくなる。





ビックリして目を開けると真っ暗で...


上を見上げると、猫男が微笑んでいた。


「金子」



「へ...?」




抱きしめられた状態から猫男が言った。


突然言われた言葉に頭の中がハテナで埋め尽くされている





「俺の名前。知りたかったんだろ?」



「うん...!」





「というか、俺最初お前に会った時に言ったような気がしたんだけど...」


「あの時は....."ねこ"って言ってたよ」





「それって"かねこ"の"ねこ"じゃない?」



「うん...。そうだね.....」






猫男と目が合わないようにゆっくりと言う。


そうしないと、ただでさえ顔がポーッと熱いのに、さらに熱くなっちゃいそうだったから...




「と、とりあえず...離して??」


「あぁー...どうしようかな~なんか、癒されるんですけど」




そう言って、さらにまわされた手に力を入れられた。




い、癒されるって.....あんたがそうでも、私にとっては寿命縮むほどドキドキすることなんですよ!!!


「俺さぁ.....」


急にかしこまった猫男が何かを言いかけた。




「何?」




ちょっと言いにくそうなかおをした彼は、3秒くらい間を開けてから口を開く。

「俺、かい........



―――――ピロピロピロ~~♪





硬くなった雰囲気の部屋に似合わない音。



「あ、私のだ...」




携帯が、鳴る。




「でなよ」


猫男が今まで離してくれなかった私を解放した。




「早く。電話だろ?」




「うん.....」






電話の相手よりも、さっき、猫男が言いかけたことの方が聞きたかった。




猫男に促され、カバンの中の携帯を手に取る。







―――――加賀君。


「ちょっと、ここ出るね」


「...ん。分かった」




話が長くなりそうだから、猫男にそう伝えておく。




玄関に行っても、鳴り続く携帯。


...そんなに大切な用事なのかな...?




一つ深呼吸をしてから、電話に出た




「はい...」




―――「あ、菅さん!?よかった...」


本当にホッとした様な声。


「急にどうしたの?」




"大変なんです"と、一人、電話の向こうで焦っている彼



「加賀君、まず、落ち着こうか」


―――「は、はい...」




「はい、深呼吸」



ちょっと冗談で言ったつもりなのに、スーッと、息をする音が聞こえる。


そんな加賀君にちょっと笑ってしまう私は、おかしいだろうか?



...でも今はそんなことよりも、





「で、用事は?」





「あ、あの..5年2組...、菅さんのクラスの生徒が、事故に遭ったみたいなんです...」






「え.....

それ、どういう...こと?」




頭が真っ白になった。


事故?

しかも私のクラスの生徒が?




「信号無視した車にはねられたみたいで...

今はまだ、意識が戻ってないって.....」




「病院!病院はどこ?今から行ってくる」






携帯を肩と耳の間に挟みながら、リビングに戻った。


猫男が、ビックリした顔で私の方を見ている




きっとその時、私の顔はとても怖くなっていたと思う。






「黙ってないで!病院は何処よ?」


「す、菅さん!!落ち着いてください!」





「...私は落ち着いてる!!」


猫男が私の肩をポンッっと叩く。





後ろを見ると、猫男が何か紙を私の方に見せつけていた。




口パクで、"深呼吸"。


紙には"落ち着け。焦るな"と綺麗な字で書いてあった。




ちょっとだけためらって。うんと頷く




スーッとたくさん息を吸い、

ハーッっと長めに息を吐いた。




「ごめん。加賀君」


「え、い、いえ。落ち着きましたか?」




「うん」





何か今日は悲しくなったり怒ったり、焦ったり...

忙しい。





「市役所の近くにある病院です。


でも今日は休みませんか?面会時間ももう終わります」




「...うん

明日お見舞いに行く...」






確かに今日は疲れた。


きっと今急いで生徒の所に行っても、家族に迷惑なだけ。






明日。


明日、ゆっくりお見舞いに行こう。


夜。


猫男と出会って初めてベッドで寝た





やらしいことは何もしてない。





ただ、眠れない私の背中をさすってくれていた





「大丈夫だよ」


と、何回も私の耳元で言いながら――



"明日病院俺も行こうか?"って聞かれたけれど、黙って首を横に振った。







長かった1日。でもいろんな事があった1日




急にいろいろな事があってココロも体も疲れたけど、

神様は乗り越えられない試練は出さないから。




昔母に言われた言葉を何度も心の中で呟いて

猫男の腕の中、




ゆっくりと目を瞑った。









―――――――――
――――――
―――

目が覚めると、まだ猫男は眠っていた。



時計を見ると11時を過ぎている





ちょっと、寝すぎちゃったかな...?





「おーい、猫ー。起きろーー」


何度か声をかけてみたけれど、起きる気配がない。




まぁ、いっか。朝の準備しよ




伸びをして立ち上がる。






ベッドから降りてしゃがむ。




そして猫男に、


「昨日はありがとう」



猫男の鼻をいじりながら言った。





うらやましいほどに綺麗な肌


女の私よりもつるつるしてるわぁ.....




...さっ、行こうか



「よっこら...っ!!うにゃっ!?」



視界が、回転した―――


「な...ななななななな...なによ...」





目の前には猫男。



私に覆い被ってる形だ




一体いつの間に起きてたのか...



っというか...目つき、悪っ



「お前、俺の顔いじってただろ」




「はぇ?あっ、えーと...。あの、顔じゃなくて鼻、なんですけど...」


何かドキドキうるさい。




この顔め、卑怯だぞ。



しばらく黙っている猫男




何か恥かしいから、目をそらす。




「フッ...フ八ッ....」


そんな変な声が上から聞こえてきた。




チラッとそっちを見ると、



――猫男が、笑ってる。





.....

猫男が笑ったとこ、初めて見たかも.....