「飲み会だー!!」
「「いえーーいっ」」
ガヤガヤと私の周りで叫ぶ人々。
居酒屋についてからもう4時間が経とうとしている。
「ねぇ、菅さん。大丈夫?」
突然前から話しかけてきた新米君。
確か....加賀って言ったけ?
「だいじょうぶよぉ~ほれ、キミも飲めぇ~.....おげ...お....」
頭では冷静なのに、喋ると呂律が回らなくなる。
"あぁ、吐いたな~"なんて冷静に自分の行動を分析。
「す...菅さん!?」
「うん~だいじょうぶ~だいじょうぶよぉ~」
酔いやすい私。なんか喋った言葉がへんな歌になっている。
「...俺、送ります」
「はぇ?」
「菅さんが心配なんで。家、どこですか?」
「家~?んーとねぇ...駅の近くのマンションよぉ~。加賀君分かるぅ?」
"分かるぅ"なんて聞いたけど、あそこらへんにはマンションが1つしかない。
「じゃあ、行きましょう」
そう言って私の腕を取り、歩いていく加賀君。
「ちょっとまってよぉ~」
辺りから"お持ち帰りか~"なんて声が聞こえる。
んな訳ないじゃん。
私24にもなって付き合ってる彼さえいないし
それにこの前、近所のまーちゃんには"おばさん"なーんて言われたし.....
お肌の手入れも頑張ってるんだけど.....ねぇ、
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―――
「ほら、起きてくださいよ。家に着きましたよ」
「んぁ?ん~ありがと」
どうやらタクシーに乗ってから寝てしまったらしい。
「鍵出してください。あと、何号室ですか?」
鍵を出すように促され、カバンの中に手を入れて気がついた。
.......私、部屋掃除してないし。
「いっ...いいわよぉ~そんな、ねぇ」
そう言いながら鍵ではなく財布を取り出し1万円札を抜き、加賀君に渡す。
...渡すじゃなくて、力ずくで持たせた。
「じゃぁね~」
笑顔で言ったつもりだけど、多分私の顔は恐ろしく引きつっていたであろう。
あの恐ろしく汚い部屋に誰かを入れてはいけない...
そう思い、走ってマンションのエントランスに。
「菅さん!」
後ろから私を呼び止めた。
「ん?なに?」
"あの...ですね"と顔を真っ赤にしながら言う加賀君。
何?って思ったけど、私が渡した1万円札を見ながら私に話しかけている姿に"ピン"と来た。
「お金はいいから。おつりは貰っていいよ、送ってもらったお礼で」
「いや...」
そんな加賀君の声は軽く流し、私は手を振りながらマンションの中に入る。
私しか乗っていないエレベーターの中、
「はぁ」
と言う私のため息だけが聞こえる。
いや、本当なら加賀君にお茶を一杯出す位はしようと思うんだけど...
あの物置のような素晴らしく汚い部屋には誰も入れたくないし...ね。
そしてエレベーターが私の階に止まった頃、
少しだけ酔いが覚めたのか、頭が痛くなってきた。
...明日、仕事休みでよかった...
軽い鍵を取り出し、玄間の扉の穴に差し込む。
.....?
...あれ?
鍵を回そうとするが、いつもと違って開けた感じがしない。
...鍵、閉め忘れちゃったかな...?
まあ...、このマンション新しいから大丈夫だよね。
そんな変な言い訳で解釈する。
「ただいまーーーー」
実家に居たときの癖か、毎回"行ってきます"と"ただいま"は言ってしまう。
もちろん静かな部屋.....の、はず.....
"ガサッ...バサッ"
「...は?」
誰も居ないはずのリビングから何かの音がする。
―――ゴクリ
漫画でよくこういうシーンの事、息を呑むって言うけど...
本当にそうだな~なんて思ってる。
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―――
.....いやいやいや。
今はそんな事考えている場合じゃないぞ。
普通に。
...普通に行こう。
「ただいま~.....
そして私はリビングへ繋がる扉を開けた.....
....って、あんた誰よ!?」
私の目の前にあったのは....
"床"と
"人"。
私はまるで魚のように口を開けたままパクパクさせていた。
もちろん部屋の床が見える位に綺麗になっていたことには驚いたが、
それ以上に私の部屋に誰か居る事に言葉を失ったのだ。
「あ、あんた...誰よ?」
するとその男は何食わぬ顔で私を見て、
「あぁ?猫だ」
と、そう答える。
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―――
.....ああ。分かった。
これは夢か。
なんだ、夢じゃん。
だって私の部屋に誰かいるわけないし、
それに部屋が綺麗になってるとか、
ありえんよね...―――――――