「それでな、その、なんだ。寺尾が嫌じゃなかったら、その、彼女になって欲しいな」
いかん、そもそもその話前提でここに来てるのに、何弱気な事言ってるんだ。
「嫌な訳ないよ。私も浅野君の事、す……き……だから」
とりあえずお互いに言ったのはいいが、この後どうすればいいんだ?
そこまで考えてなかった。
なんか沈黙が痛い。
「ねえ?」
とその沈黙を破ったのは寺尾だった。
「どった?」
「手、繋いでいい?」
成る程。まあこれは妥当な線だろう。
俺の右手を寺尾の左手に合わせる。
柔らかくて体温が気持ちいい。
それにしても、今日は色々有ったな。
久々に顔を合わせた島崎やら藤岡先輩がいたり。
大会では怒られたり自己ベスト出したり。
大塚を怒鳴ったり、仲直りしたり。
んでもって今はこうしている、と。
……ん?
「なあ、寺尾。聞いてもいいか?」
「なあに?」
「寺尾に告白してきたって言う不届き者は、どこのどいつなんだ?」
そこから話が飛躍して今に至るなら、そいつに感謝状くらい贈るべきか。
「え? えっと、それは、その……」
「なんだ? 俺の知り合いとかか?」
まあ知らない奴の名前を言われても知らないんだし、なす術は無いんだが。
「え〜と、だれ、だっけ?」
は?
「……怒らないで聞いてくれる?」
これってもしかして……。
「あのね、さくら先輩が、そう言ったら浅野君がどうするかなって」
それに俺はまんまと引っ掛かったわけか!
「怒ってる、よね?」
まあきっかけはどうあれ、結果は出たんだし、それについては何も言う事も無い、と終っても面白くない。
「どうやら俺は大変にご立腹な様ですが?」
「やっぱり? でもちょっとだけだよね?」
「ん、いや、かなり、だな」
「そうなの?」
ちょっとしょげた様子がまた可愛い。
「仕方ない。許してあげよう。当然条件付だが」
悪戯心に火をつけさせてもらう。