「すごいよ! 寺尾さん3位だよ!」

「あれ? これって自己ベストじゃない?」

 そう言いながらあーちゃんがノートを広げる。

「やっぱりそうだよ! 凄い凄い」

 そうか。それはよかった。しかし、今回は藤岡先輩効果だろうか?

 最近の調子からすれば、アベレージを出すのも難しい調子だったが。

 やはり精神が肉体に与える影響、というのは無視できないのだろう。

「なんにせよ自己ベストを出したんなら、文句なしだな」

「そうだよね。寺尾さん頑張ったもんね」

「そういう村山はどんなタイムだったんだ?」

 その頃は寺尾との話しに夢中で、レースを見ていなかったらしい。

「ひどいよ! ちゃんと応援してよ!」

 そう言われても、村山のレースと寺尾との雑談、どちらが重要か、と言えばねえ。

「これでも僕も自己ベスト出したんだよ」

「え!?」

 俺が驚く前にあーちゃんが驚く。

「あれ? そうだったの?」

「岬さんまで……」

 あーあ、拗ねて椅子に『の』の字を書き出したよ。

 プールに目を戻すと、寺尾と藤岡先輩は何やら話しながら歩いている。

 あの様子なら、藤岡先輩も覚えていたんだろうな。


 予選5組が選手紹介を受けている。

 寺尾が決勝に進む為には、この5組から3人が脱落しなくてはいけない。

 寺尾の様に自己ベストを出した4組の選手が、アベレージより悪いタイムを出した5組に勝つ事だって普通にあるが。

 しかし、レースは脱落者がいない、拮抗した好レースになっている。

 1位の3コースがフィニッシュ。続いて各コースが僅差でゴールしている。

「あーちゃん、どう?」

「えーっと、総合タイムでいくと……」

 あーちゃんも電光掲示板に目をやり、タイムを確認し始めた。

「7位が06秒16だから、由美は6位?」

 いや、寺尾は4組の3位だから。つまりは総合9位か。

 決勝に残るのは総合8位まで。

 残念ながら寺尾は予選敗退、という事になる。

 それでも総合でトップ10に入るんだから、十分健闘したんだろう。