ターンを終え、後半の50mに入る。

 寺尾はどちらかと言えば先行逃げ切り型だから、この先はちょっとやばいかも。

 それでも

「由美ー! がんばれー!」

というあーちゃんの大声を背に、寺尾が少し追い上げてきた。

「ほら、浅野君も!」

 あーちゃんに急かされるが、名前を呼ぶ応援は気恥ずかしい。

 ので

「追い込めー! 追い付けー! ぶっ殺せー!」

「こら! ふざけた事言ってんな!」

 兄北田に怒鳴られた。

 ちょっと亀田家風を混ぜただけなのに。

と俺の応援が効いたのか、少し3コースより前に出たかな?

 残り25mラインまできた時には、3コースには頭一つ差をつけ、前をいく藤岡先輩と4コースには身体半分くらいの差か。

 しかし藤岡先輩も早いな。フォームも綺麗だし、ペースも安定している。

 県予選には出て無かったんだろうか?

 あれだけ騒いでいた寺尾が気付かなかったんだから、出てないんだよな。

 残り約15mに差し掛かり、4コースはラストスパートに入ったのか、ややペースを上げた。

 それと3コースもラストペースか、寺尾との差を詰めてきた。

「ヤバい、ヤバい! 逃げ切れー!」

 寺尾にも分かっているだろうが、叫ばずにはいられない。

 しかし声援にドスが効いていないのか、遂に3コースは寺尾と並んだ。

 残り5mラインでは横一線。勝負はタッチの差だろう。

 フリーに限らず、タッチのタイミングが合うか合わないかでコンマ何秒だが差が出る。

 こんな横一線の場合、頭が前に出ていても、タッチのタイミングで負ける場合もある。

 藤岡先輩が4コースとほぼ同時にゴールしたようだが、それどころじゃない。

 そのすぐ後に寺尾と3コースが、これもほぼ同時にゴール。

 タッチのタイミングはどちらとも言えない、同時に見えた。

 素早く電光掲示板を見ると。

『1着 5コース 1:05:05』
『2着 4コース 1:05:55』
『3着 2コース 1:06:02』
『4着 3コース 1:06:65』

 おー!3位じゃないか!