「そっかぁ。まあ浅野君だし、仕方ないっか」

「何で俺だと仕方ないんだ?」

 と、寺尾はちょっと冷たい視線?

「だって、私の事、覚えてなかったのに、さくら先輩を覚えてたら、嫌だもん」

 ……ですよね。

「ん? 嫌だもんって?」

 寺尾の中での基準が分からん。

「あ! えっと、それは、あ! そうそう。先輩より半年長く一緒に部活やってたんだよ? だから、ね?」

 ん、まあそれはそうなんだが、何をそうも慌てているんだか

「まあいいか。それで、寺尾は藤岡先輩と?」

「うん。いろいろ相談にのってもらったりしてたんだ。さくら先輩って、スッゴくキレイだし、優しいし、憧れの先輩なんだ」

 藤岡先輩の顔を思い出してみる……。

「そう言われれば、たしかに綺麗な先輩だったな」

 まあ、寺尾ほどではないと思う。うん、バカです、俺。

「浅野君は知らないかな? ファンクラブまであったんだよ」

 それは、どんなラブコメヒロインだよ。

「って言っても、私とちーちゃんとれいちゃんが作ってただけなんだけどね」

 いや、ちーちゃんとかれいちゃんって言われても知らないんだか。

「そっか、そんな憧れの先輩と一緒に泳げるなんて、いい経験になるな」

 藤岡先輩自体をあまり覚えてないから、こんな当たり前の言葉しかかけてやれない。

「うん!」

 それとは全く関係なく、寺尾はランランルーしている。朝マック効果か?

「コースは? 藤岡先輩が5コースで寺尾が2コース、か。隣じゃないのは残念だな」

 女子100mフリーは予選5組で寺尾のレースは予選4組目だ。

 市大会だから参加校も少なく、予選も少ない。

「けど、一緒に泳げるならいいんだ。あ、そろそろだから。先にレース頑張ってくるからね。しっかり応援してよ」

「ああ、任せろ」

 そうして寺尾は気合いの入った顔で、レースへと向かった。