少女の名は、大塚聖と言う。
外見も性格も、特に至って変わった所がある訳でもなく、これまでの十四年間、ごく普通に毎日を過ごしていたように思われる。
……他人からは。

だが実際の所、必ずしもそうではないのだ。


確かに少女は、外見、性格などは普通だ。
だが、一つだけ他の誰とも違う所がある。

彼女の、他とは全く違う所。
それは、彼女が日々見ている世界だった。


聖には、視えるのだ。
常人の目には決して映ることのない者達の姿が。

それは、異形という括りで示され、時には妖と呼ばれることもある者達。
そんなものが、聖にははっきりと見えている。



初めてその存在に気付いたのは、幼稚園くらいの頃だった。

部屋の隅に蠢いて見えた黒い塊に、とてつもない恐怖心を感じたことを、今でもよく覚えている。

それから段々妖という者の姿をはっきりと認識するようになって、妖に対する恐怖心は薄らいでいった。

それと同時に、小学校に上がり人と関わることが増えてから他人と自分の差を強く感じて、妖との接触を避けた。
そして高学年になるにつれ、それまで以上に妖との関わりを嫌い、妖の存在を無視するようになった。


だが、視えてしまうからなのか。
友好的な者には受け答えもしてしまう。
そんな自分に呆れる毎日が続いていた。


だが、いつしか聖は、見鬼である自分を隠していくあまり、他人との付き合い方が形式化し、上辺だけのものになっていた。

だが、仕方がないことと言ってしまえばその通りであるということも分かっている。

他人には視えないのだ。

どんなに自分が本当のことを言ったとしても、他人にとっての真実は別にある。

聖にとっての真実は、必ずしも他人に理解されるものでもないということは、本人もよく分かっていた。

理解されないことのために、関係が崩れてそこに居づらくなるよりかは、自分を隠してでも他人との付き合いを大事にしていきたい。

そんな思いから、聖は自身の人格よりも、人間関係を取った。


そして今日も、彼女は境界の外でだけの笑顔を作り、他愛のない会話に時間を費やす。

そんな自分を振り返り、どうしようもなく自分が嫌で堪らなくなるのだった。