†プティットゥ・ミニョン・アムール† 小さな可愛い愛


「桜の蕾も膨らみ始めた今日このよき日に、」

お決まりの言葉で始まった卒業生答辞。
壇上でそれを読み上げる片割れを私は卒業生の列から見上げた。

実は今日、高校の卒業式だったりします。
全く実感ないけど。

「、3年間ありがとうございました。
卒業生代表、京華 椿(けいか つばき)」

やっと終わった。
椿が壇上から降りてきて列に加わると、最後のプログラム校歌斉唱になった。

あまり好きではなかった学校だけれど、
何人かの親友や椿と過ごした日々を思い出したら

胸にじんわりと悲しみが染み込んできた。

式が終わる頃になってようやく。


ちょっと笑えちゃう。

でも、これは新しいステップへの踏み台でしかないの。
ネガティブ気味な私にしては前向きに捉えられてて、ビックリ。




ザワザワ。
式も終わり、中庭では卒業生達が写真を撮り合っていた。
中庭の隅の方にあるベンチに座りながら椿を待っていると

「菫(すみれ)」

学年で何人かしかいない親友達が来た。

「悠美(ゆみ)、柴莉(さいり)、遊茉(ゆま)、
写真撮ろうよ、この制服で会うのは最後だし。」

立ち上がりながらそう言って首からぶら下げていた一眼レフを振ってみせると

「撮ろう~
実はあたしもそう言おうと思った!」

遊茉がそう言って私と同じように首から下げている、
私より少し最新の
一眼レフを振った。

いいなぁ。
もしお金があったら最新の一眼欲しいのに。

「誰か撮ってくれるかなぁ?」
遊茉が不安そうに呟いた。

確かに、
撮ってくれる人いるのかなぁ?
“変人”

と呼ばれている私達を。




何でこうなったのかは卒業式を終えた今でも分からない。
ただ、私達はこの高校の雰囲気に合わなかったんだと思うの。

この高校は椿がどうしても行きたいと言っていたところで、家から近くて校則もゆるゆるで
何より学費がとても安い私立で。

だから、パパもママも私をここに入れようとしたんだった。


ここの生徒達は、校則がゆるいためか、
格好ははちゃめちゃだった。
入学式はビックリしちゃった。

偏差値も標準の少し下だから、
こう言ったら悪いけど
中身よりも外見を気にする子ばかりで。

金髪やピアスなんてたくさんいたし、スカートだって
みっともないと思ってしまうくらい短い子ばかりだったの。


そんな中で私達は変な意味で目立ってしまったんだと思う。



“森ガール”であり、
“森ガール”を尊敬している
私達は。




私達がベンチのところで考えていると、
写真を撮り終えたらしい椿が来た。

「菫ー
帰れるよ!
あっ!
写真撮ってあげる。」

双子の妹である椿は私達を変な目で見なかった。
そりゃ、同じ家で生活しているし
双子なんだからお互いにそろぞれの性格を理解している。


それに、椿が言うには
森ガールってなんか可愛くて庇護欲掻き立てるのよねー
らしい。

私はとってもいい妹を持っているみたい。


「本当?
じゃあ、椿ちゃんお願い。」

3人とも椿の事を警戒したりしないから、すごく嬉しい。

まあ、椿は派手好きじゃないし
何でこの学校にしたのかはよく分からない。

男の子に慣れていないから女子校にしたのは分かるけど、
それだったらもっと家の近くにあるのに。
しかも、セーラー服じゃなくてブレザー服の学校なのに。




私はこのセーラー服が気に入っていたから別によかったけど、
椿はあまり好きではなかったはず。


「菫!
撮るよ、こっち向いてー

ハイ、チーズ!」

パシャッ!


これで卒業だと思うと、自然と柔らかい笑みが溢れた。

もしかしたら、ここで見せてきた笑顔の中で、
1番の笑顔かもしれない。

「椿ちゃんありがとぅ。」

遊茉が椿からカメラを受け取って早速写真を見せてくれた。

あまり思い入れのない校舎をバックに、
私達はここの人にはけして見せることの無かった顔で写っていた。


「そう言えば、
制服で写真撮ったことなかったよね。」


ふと思って言ってみた。
うん。
絶対に初めてだ。
今まで私服で写真やプリを撮ったことはあるけど
制服は初めてのはず。

「本当だ!
あたし達アルバムも大して載ってないし、
載っててもこんな顔じゃなかったよね。」

柴莉が感動したように言った。




「じゃあ、明後日ね!」

そう言って椿と一緒に校門に向かった。

「よかったの?
もっと話さなくて。」

椿が不思議そうに聞いてきた。

あの後私のカメラでもう1回椿に写真を撮ってもらうと
すぐにみんなと別れて来たの。

まあ、明後日に遊ぶから別にいいし、
卒業ってあまり関係ないの。
今まで私服でしか遊んだことないし。


そのことを椿に言うと、もっと不思議そうな顔をした。
なんか可愛い。

思わず笑ってしまったら椿に微妙に睨まれた。

「何で笑ってんの?」

「だって、椿可愛いんだもん。」

そう言うと椿が固まっちゃった。

「いつも大人っぽい顔してる椿が
すっごい不思議そうな顔したからビックリしちゃった。」

椿は妹なのに、姉の私よりもずっとしっかりしてて
顔もお姉さまっぽいの。
だからよく椿の方が姉だって勘違いされちゃう。