ガチャリ―…
『行ってきまーす!!』
「気をつけてね~」
私はお母さんの声を聞きながら家を出た。
向かうのは隣の家。
私は毎朝幼なじみの藤原純(フジワラジュン)を迎えに行くのが日課になっている。
ピンポーン!
「はぁい?」
『あ!おばさんおはよう!!蒼依(アオイ)です!!純迎えに来たよ~』
「あぁ!いつもありがとーね!!…ほら純!行きなさい!」
「…痛ぇよ!分かってるって!!行ってくる」
扉を開けて出て来た純はパタパタと走って来て笑った。
「おはよー蒼依!いつもわりぃな!!」
『もぉーほんとに悪いと思ってる?』
私が横目で見ると、両手を顔の前で合わせて笑っていた。
ずるいよ、、こんな笑顔見せられたら許すしかないじゃん。
こんな…私の大好きな笑顔見せられたらさ。
でもね、この気持ちは届かない、、
だって純は…
クラスメートの凛ちゃんが好きだから。
ある朝、いつもみたいに一緒に何気なくあるいていたら急に言われた―。
協力してって相談された時、ほんとに泣きそうだった。
でも、純があまりに顔を赤くして言うから、、恥ずかしそうに笑う純の顔を見てると…大好きだって痛いぐらいに伝わってきた。
片想いの辛さは知ってるから、、気持ちが届かないのは悲しいって知ってるから…
私は自分の気持ちを押し殺して、純に笑顔を向けて言った
『協力してあげるね!!』
って。
「蒼依ー!聞いてるか?」
『えっ?何?』
「だから!高宮と今日も一緒の電車かなって言ったんだよ!!」
『さぁーどぉだろうねー!!』
照れ臭そうに言う純を見ていたくなくて、目を反らして私が軽く笑って走ると、純は「あ!待てよ!!」とか言って追いかけてくる―…
この朝の数分が大好き。
だって純がちゃんと私に笑ってくれるから―…
高宮って言うのは凛ちゃんの苗字。
いつも電車が一緒だからその時に2人は仲良くなっていった。
私はただ話しながらそんな2人を見てただけ。
…だんだん仲良くなる2人をただ笑って眺めてた。
届きそうな距離だけど、届かないってこんな事を言うんだろうね。
そんな事を考えてると、手を振りながら近づいてくる可愛い影が見えた。
「おはよう!!蒼依ちゃん!藤原君!!」
『あ…凛ちゃんおはよう』
「高宮おはよ!!今日も元気だなー!!!」
純がニカッと笑うと、凛ちゃんも少し頬を赤らめて笑った。
そんな2人を見ると心がまたキュッと締め付けられたように痛んだ。
学校についてぼんやりと授業を受けて、お昼になったから友達とお昼を食べてトイレに行った時。
凛ちゃんが友達とご飯を食べているのが見えた。
凛ちゃんは女の子から見ても可愛くて優しくて完璧だと思う。
…勝てる要素が全くないんだよね、、
ため息をついて視界から外せば聞こえてくる綺麗な声。
「蒼依ちゃーん!!お昼食べ終わったの?」
『あ、うん!凛ちゃんわ?』
「今から食べるんだぁ!…じゃあまた教室でね!!」
『うん、、また』
笑顔で立ち去る凛ちゃんに私も笑顔を返した。
なんで笑ってるんだろうなぁー…私。
というかちゃんと笑えてるのかな?
私はふーっとため息をついて歩き出した。
自分ではそろそろ諦めなきゃいけないなぁーって言うのは気づいてる。
多分2人は両想い。
切ないし寂しいよ?
けど、、純の恋を見届けると決めたのは私。
だから最後まで笑顔で応援する。
それが私の最後の意地―…
『あ、雨…』
学校が終わって、友達と別れて外に出ると、ぽつぽつと雨が降っていた。
ついてないなぁー…傘なんて持ってないし、、!
『どぉしょー…』
「傘ないのか?」
振り向くと純が手に傘を持って。
『あ!傘持ってるんだー!!』
私が言うとニカッと笑う純。
「良いだろー?」
『うらやましい!!ちょうだいよ~!!』
傘を奪おうとすると、私よりも10㎝以上高い身長差で届かない位置に上げられた。
「ちょうだいって俺が濡れるだろうが」
『あ?バレた?』
私が笑うと、純もハハハと笑った。
それから傘を広げた。
「入れてやろうか?」
なんだかんだ言いながら、私に少し傘を傾けて立っていてくれる純。
思わず顔が緩んで笑顔になってしまった。
そんな表情を隠しつつ純に私は近づいた。
『ほんとにっ?ありが、、「雨なんだー…」…ッ!』
『ありがとう』と私が言いかけた時、、後ろから聞き慣れてるけど、今はあまり聞きたくないソプラノボイスが聞こえた。
声の方は後ろ。
…見なくても純の嬉しそうな顔を見れば誰か分かるよー…。
「高宮じゃん!今帰り?」
「うん!2人も?」
「そうだぜ!まぁ蒼依とは今、会ったとこだけどな!!」
「そっかぁ!」
笑顔の凛ちゃんに私も笑った。
「高宮、、もしかして傘ないのか?」
そぉ純が言うと少し眉を下げる凛ちゃん。
「持ってないんだぁ~…」
「な、、なら一緒に帰ろうぜ!!」
純が顔を赤らめながら言うと、凛ちゃんは私にちらっと視線を向けた。
、、私の事気にしてるんだろうな…
と思いながら気づいてないふりをする私は、嫌な奴だね…。
「私は何とかして帰るから2人で傘さして帰って?」
笑顔の凛ちゃんに私の胸はさらに痛んだ。
純の顔を見ると、残念そうな表情で俯いている。
あぁ…私が邪魔なんだね2人には、、
私はズキズキと痛む心を隠すように笑って2人を押した。
「蒼依?」
「蒼依ちゃん?」
不思議そうに首を傾げる2人に私は、、笑った。
『私さぁー!…実は教室に傘置いてあるんだぁ!!だから純は凛ちゃんを入れてあげて?』
「ほんとにあるの?蒼依ちゃん」
不安そうな顔をする凛ちゃんと目を合わせずに、純の傘を奪った。
『もぉー!凛ちゃん心配性だなぁー!!大丈夫だよ私は!!!』
「蒼依、、」
ダメだよ、、純
何も言わないで。
上手く笑えなくなる前に帰って…私が嫌な女の子だって分かる前に、、
そぉ思って2人を雨の中に突き出した。
『じゃあ!また明日』
私は返事なんか聞かずに校舎の中に引き返した。
溢れる涙を隠すように走りながら思った、、限界なんだなぁーって。
私はほんとに…ただ純が好きなんだなぁーって。
―…
今日でけじめをつけよう。
もぉ忘れよう、、
絶対に、純には幸せでいてもらおう…!!
私が支度していると珍しく純が迎えに来た。
「おはよう蒼依!!昨日はサンキューな!!!」
『おはよう、、やけに嬉しそうだね』
朝からいつも以上に笑顔の純に、私は目を合わせないで言うと純は、急に私の肩を掴んで言った。
「あのさ…俺、、今日告ろうと思って」
一瞬息が詰まりそうになった、、でもちゃんと笑えてるって事は…覚悟出来てたのかもね、、
私は純を見つめた。
『好きなんだね、、凛ちゃんが凄く…』
「…あ、、あぁ!!って恥ずかしいだろっ!!」
『ははっ!純真っ赤だよ?』
顔を隠すように手で覆う純に、私は言った。
『伝えるなら、、ちゃーんと放課後教室にとか居てもらって口で伝えなよ?』
「お、、おう!!」
たどたどしい返事を返した純は、電車で凛ちゃんに会っても今日は上手く話せてなかった、、そりゃそうだよねー…
気持ち伝えるんだから、、
学校に着いた時、純は急に凛ちゃんの腕を掴んだ。
「藤原君?」
不思議そうに純を見上げる凛ちゃん。
「あ、、あのさぁ!今日話あるから…放課後教室に居て!!」
一瞬キョトンとした凛ちゃんだったけど、すぐにいつもの笑顔で「分かった!待ってるね!!」と返していた。
私は見てたんだー…言えた純の喜んでる顔も、凛ちゃんの嬉しそうな顔も。
そんな顔を見てると涙が出そうだから私は足早に教室へと向かった。