:  : :
       *  : :
          ☆ :              ◆


  「キスしていい?」

  「――ダメ」



  だって男から
  するモノでしょ?


  ……フツウ



  そう言って彼は
  あたしの唇を溶かすんだ


  アイコトバは
  Say“I Love You”


  女の子はいつだって
 
  決定的なコトバが
  欲しいの







「――ない、ね」

「そうだね」


――ポト、ン。


目の前に座る、ふたりから発せられた言葉に思わず固まるあたし。



指から床へと無残にこぼれ落ちたのは、大好きなさくらんぼ。



「あ゛ぁ――ッ!今日はふたごだったのに」

片っぽしか身の残っていないさくらんぼをマジマジと見つめた。




「てか、そんな答えが欲しかったんじゃないの……っ、」

もごもごを口ごもる私に、やっと求めていた答えがもらえそうな雰囲気が漂う。



「はいはい、yesかnoではなく」

「どうやってこの状況を打破するかどうか。そうでしょ?」


すでにお弁当を食べ終え、鏡で髪をチェックしているキナ。

大人っぽい外見に加え、いつも冷静な彼女には年上の彼。



「また暴走しちゃダメだよ?」


そう言って、うふ……とふっくらとした唇がピンク色に光るのは、比奈。


長いまつげに背が小さく、どこか危うい雰囲気の持ち主。

そんな彼女には、他校に年下の彼がいたり。






「いつも暴走しちゃうちぇりには今日はしおらしく」

「はかなくね」


――とりあえず、今日は彼の話を黙って聞いてなさい!


ビシィッと重なった言葉が、見事にあたしの体を貫通。



しおらしく……?

い、いじらしく?


は――儚い……?



「あの、それ……どういう意味」

と、聞こうとした瞬間、チャイムが鳴ってしまった。



【儚い ―ハカナ‐イ】

・これといった内容がない
・しっかりしていなくて頼りにな らない

・あっけない



「……え、え~と?人の死についていう……っ!?」


「コラ!また咲坂か!」

気が付けば、電子辞書に映る文字を音読していたようで。



こんな風に怒られることは、日常茶飯事だったりする。



「そんなに放課後、補習をしたいのか?」

「したくないです!ご、ごめんなさい……っ!」

先生に見つからないように、そそくさと辞書をしまった。




儚く……今にも消えそうな感じ。

それって私の存在自体を否定されてるんじゃ……?


でも、やっと掴んだこの恋。



今まで散々だった無残に散ってきた恋。

私だって、終わったからって何も成長出来ていない訳じゃない。


“何か”を学んで、吸収して次の恋に全力で。



――そう、いつだって全力でいたいんだ。






恋はいつだって、一目惚れで。

目が合った瞬間、あっけない程にオチていって。


勝手に妄想して

勝手に暴走して

気が付けば、猛烈アタック。


ブレーキなんて、ないの。


いつだって、後ろなんか振り向かないで全力でいたいの。





なんて言ってみたけど……。



――『重い』

――『正直、キツい』

――『疲れちゃった』



恋の駆け引きっていうの?

押しと引きをうまく使いこなせないあたしは、いつだって

押して、押して、押しちゃうタイプで。


それをなんとかセーブしつつ、今に至る。




「とりあえず、メイクはきちんと」

鏡の中で最終チェック。


ファンデのヨレなし!

マスカラのダマなし!

チークのブレなし!





「じゃ、頑張ってね」

「報告待ってるね~」


彼氏とラブラブのふたりは、授業が終わると同時に速やかに帰宅。



その、数分後。




【From:キナ】

自分からチューとか


---END---


この、1分後。



【From:比奈】

ありえないから♪


---END---




「………」

なんちゅー連携プレー。




そう、さっきのあたしたちの議題は。




「恭一くんっ!」

「早ぇな」

教室へ早足で向かうと、サラサラな黒髪を風に散らす彼。



“付き合って一ヶ月も経つ彼が、ギューもチューもしてくれない”コト。



「なんかいい匂いする」

「……変態か」

クンクンと鼻を鳴らして近付くと避けることはしないものの

冷たい言葉でグサリ。


第2ボタンまで開かれたシャツから覗く綺麗な鎖骨に白い肌。


キュンキュンと甘く高鳴る鼓動をグッと押し込む。



そんな未だキスもしてくれない彼に、自分から迫ってみると考えた私。




「帰るぞ」

「あ……っ、う…うん!」


しおらしく、儚く。

自分の存在を出来るだけ、消す、と。


勝手にそう解釈したあたしは、彼の斜め後ろをキープし


つかず離れずの距離を維持し続けた。




しばらく視界に映らない私を気にしてか、恭一くんが振り返る。


「何してんの?」

――視界から消えてるけど?


キレイな唇が、曲線を描く。


「今日は、しおらしくいようと思って!」

「なにそれ」

少し開かれた唇、フッと目を細める様はきっと男の子もドキッとするはず。



「恭一くん!男の子にそそのかされても、付いてかないで!」

「……はぁ?」

こんな風に喋っているけど、恭一くんはひとつ上。



知らない男の子へと嫉妬と、少しだけ膨れ上がったキモチ。



「手、繋いじゃおっ」

今日1番の重要なワードが抜けたあたしはタタッと駆け寄ると、その細長い指に自分の指を絡めた。




私と恭一くんの出会いは、2ヶ月程前のこと。



「手、……熱…っ」

ひんやりと冷えた手に混じり合うのは、あたしの体温。


「気持ちいい」

こうやって、勝手に上昇してしまう体温を恭一くんがクールダウンさせてくれる。



小さい頃から恋愛体質だった私は好きな人のそばにいるだけで、体質が上昇してしまうクセがある。



――んん?

ってか、これ恋をしている女の子全員に言えることだよね?





「恭一くんの手、いつも冷たいね」

「――冷え性なんじゃない?」


今はこうして、なんとか返事を返してくれるけどあたしがアタックし始めた時はヒドかった……。





◇ * ◇



その日は珍しく、電車に乗る直前でケータイを忘れたことに気付いたあたし。


今の時代、ケータイがなきゃ生きていけない女の子が急増中。

もちろんあたしもその中のひとりで。




「学校、戻ってくる!」


「えぇ!?」

急に何を言い出すんだ、と言わんばかりの顔をしたキナ。

声に出さなくても、表情で何を言いたいか分かるようなったのは

小さい頃からの親友、あたしの特権な訳で。



「もう遅いよ?」

キレイに描かれた茶色い眉を下げる比奈。

ばっちりデコられたピンク色のケータイを優雅に開き、時間を確認している。



「ダ、ダメ……ケータイがなきゃ……」

「「生きていけない」」

人差し指と親指を立てて、ピストルの形を作る。

それをこちらに向け、見事にあたしの言葉の続きを代弁してくれたふたり。


その日はふたりともデートの誘いがなかったようで、フリーだったんだ。

久しぶりに3人揃ったあたしたちは、カラオケに買い物、クレープ屋さんへと遊び歩いていた。