目の前には白い人間。

いや、白い服を着た人間。


白衣には半袖はないのか?


Tシャツから伸びたひょろりと白い自分の腕を見る。


冷房の利いた室内。

俺に季節なんて無くなった。



「順調ですか?」



飾り気のない眼鏡の奥にある細い目。
彼はそれをさらに細める。


笑っているわけでもなく、怒っているわけでもない。
ただ、困っている。

当たり前か。


「ごめん。先生。聞き方が悪かった。」


何も言うなと制するように両手のひらを彼に向ける。


「病気の進行は、順調ですか?」


自分と大差ないであろう年の医師がふっと鼻から短く息を吐いた。


「あなた風に応えましょう。」


手元のファイルを閉じる。

それは俺のカルテ。


「順調ですよ。前回と同じくね。」


その答えに満足する。


「何度も言いますが、勝手に病院を抜け出すことはしないで下さいね。
あなたの体のこともありますが、捜索に出る看護師たちが気の毒だ。あれは彼女たちの仕事内容とは少し異なる。」



おどけて言う先生に向かって声を出さずに微笑む。



それが俺の答え。