「それより、林はいつもここで吹いてるの?」


剣斗先輩より、少し低い声で剣哉先輩に質問される。


『あっはい。人を見かけたこと無いし、誰も来ないと思って吹いてて…』


先輩達と会ったこと無いから、本当にびっくりした。






「でも、なんでここ?」


剣哉先輩に「部室があるじゃん」と、不思議がられた。


確かに部室あるんだけど、先輩も練習してるし、邪魔したくないんだよね…


それに…





『私、外で吹くのが好きなんです。室内とは違って、澄み切った空気に振動する事が快感で…』


外で吹くのが、大好き。


視界が広くて、音を遠くまで飛ばすことが楽しい。


考えただけでも、笑顔になる。


あっ…でも、もうダメだよね…





『でも、先輩達もここ使いますよね…』


ショックだな…


見晴らし良くて、最高の練習場所だったのに…


まぁ、私は後輩だし諦めよう。


そう思ってたのに





「使うけど、使っていいよ」





予想外の答えに、パッと顔を上げた。


えっ、本当に?





『でもでも、私…下手だし、クラリネットの音煩いですよ?』


私の演奏なんて、部活の先輩達に比べたら全然だ。


聴いてられる演奏は出来ないもん…


なのに、先輩は





「外で吹くの、好きなんだろ?」


剣哉先輩が、微笑んでそう言ってくれた。


私は、素直に頷く。


「だったらいいよ。てか、俺らの屋上じゃないし」


剣哉先輩がそう言うと、剣斗先輩も「そうそう」と笑顔で同意してくれた。


本当に、王子様みたいな性格の人達だ…





『剣哉先輩……剣斗先輩……ありがとうございます』


私は頭を下げて、お礼をした。


顔を上げると、驚いた顔の先輩達。


あれ…?


大げさすぎた?