「それより、林はいつもここで吹いてるの?」


俺が屋上に居るときは、見たこと無い。


といっても、俺が屋上使うのは授業中か放課後だけど。





『あっはい。人を見かけたこと無いし、誰も来ないと思って吹いてて…』


なるほど。


だから、俺ら見た時あんなに驚いてたのか。


まぁ、俺もビックリしたけど…





「でも、なんでここ?」


部室で練習すれば良いのに、何で屋上?


『私、外で吹くのが好きなんです。室内とは違って、澄み切った空気に振動する事が快感で…』


なんて、微笑んで言うから本当に好きなんだなぁと思った。





『でも、先輩達もここ使いますよね…』


しょぼん…として言う林。


あっ、もうここ使えないと思ってる?





「使うけど、使っていいよ」


剣斗がそう言うと、パッと顔を上げる。


『でもでも、私…下手だし、クラリネットの音煩いですよ?』


喜んだ顔が、また一気に沈む。


俺は、林は下手だ何て思わなかったけどな…


それに





「外で吹くの、好きなんだろ?」


俺がそう言うと、こくんっと頷いた。


「だったらいいよ。てか、俺らの屋上じゃないし」


剣斗も「そうそう」と笑顔で同意する。






『剣哉先輩……剣斗先輩……ありがとうございます』


頭を下げる林に、俺と剣斗は驚いた。


頭を下げた事にじゃなくて、名前で呼ばれたことに。


俺らの事を見分けられないから、名字で呼ばれることが大半。


名前で呼ぶ子なんて、初めてに等しかった。