また、しばらく無言が続いた。二人とも、横に歩くだけで一言も口を聞かない。そんなとき、ちょうどある教室が騒がしいのに気づき二人ともそっちに目をやる。
「喧嘩か」
「まあ、無関係の上級生が止めることもないだろうな」
「周りは、止める気なしか」
「どうする?」
「……」
 廊下から二人で、教室を眺めていた。しかし、止む兆しは見せず、殴り合いの度合いは激しくなっていく。誰も止めようとはしない。そのうちのひとりが椅子に手をかけた。その瞬間、顔が一瞬こっちを向いた。野球部の一年だった。おれが止めるしかないのか。
「おい。もうやめろ」
 前の扉から教室の中に入り、投げられる椅子に手をかけ止めようとした瞬間、後ろの扉から入ってきたもうひとつの手がそれを止めた。
「生活指導部長のおれの前で椅子を使った喧嘩か。それも、甲子園ベンチ入りした野球部の一年生か。上級生はいったいどういう指導をしたのか」
 俺は、先生が俺のほうをチラッと見て、すぐに、一年に目を戻したように感じた。
「ちょっと来い。まぁ、部活動停止の処分は免れないだろうな」
 二人は出て行き、教室の中の生徒は何事もなかったように席に戻り始め、そこにおれひとりだけが残っていた。
――もう少し、おれが早く判断していれば……。
「おい。倫理講習始めるぞ」
 その声でおれも監禁部屋へと入った。