「今日さ、なんか、あんた元気なかったよ。影が薄くなったみたい」
「そうかなぁ………」
おれの頭の中は、何かを考えていた。この返答はほとんどうわごとにすぎない。窓から外を覗くとおれの影がきれいに映っている。この古びた無機質の金属の箱の窓に不釣り合いな位きれいに写っている。まるで窓の外側にもおれがいるようだ。
「聞いてるの?ちょっと」
「ああ、うん」
おれの返答は全くこれも無機質なものだった。
「ちょっと寝るね」
これ以上、話をするのは妙に疲れる気がした。
プシューとバスの扉が開いて生徒が一斉に降りる。ある生徒はコンビニ、ある生徒は自宅へ、ある生徒は電車の駅へ向かう。おれ以外の生徒には日常の光景なのだろう。
そんな日が翌日も続く。全く無機質な日々だった。学校を出て、バスに乗る。おれが、また後ろのほうの席に座っていると昨日の女子がまた、横に座った。昨日と全く同じである。
「何かさ。あんた本当に元気ないよ。昨日より更に。そっか……。野球失っちゃったもんね……」
「野球部のやつで推薦取れなかったの俺だけだもん」
何気なく外を見ると窓の外にくっきりと昨日と全く同じ、いや、昨日よりもくっきりかもしれない。おれの姿が映っている。
バスは、今日も商店街の端の電車の駅の前で生徒を降ろす。昨日と同じである。おれの家はここから十分程度歩いたところにある。
「すみません……。甲子園出ていましたよね。サインいいですか」
「うん」
おれは、渡されたペンで不器用に書く。もともとサインなんてそんなに考えたこともない。うまく書けるはずがない。こういう風にサインを頼まれるのは、半分有名人気取りになれるのでいいが、半分面倒である。この小さな町にきて四ヶ月、おれはもう有名人で、ほとんどこの町でおれを知らない人はいないという存在だった。誰も、自分に興味を示さない生活は、もう忘れかけた。それなのに、おれが行く大学がないのはどうしてだろうか。
そんな日がいくらかと続く。毎日が昨日と全く同じであった。
毎日、似たような授業を受け、帰りのバスには、きれいに自分が映り、それと対称におれは、疲れていく。なぜおれだけ大学が決まらない……。