俺は、再度、学校に向かうことにした。いったい学校がどういう状態になっているか知りたかったし、学校に行けば、何か解決するような気がした。
 低い雲が一面に広がっている。九月の初めにしては少し寒い。町外れの学校なので最寄りの交通機関がなく、通学バスももうでてしまった。ハンドルを触ることができないから自転車に乗ることもできない。歩くしかないか。
 学校に着いたときは、昼過ぎだった。土曜日の今日は、用事のない生徒はもう帰る時間である。おれは、野球部の部室に向かった。ただでさえも練習が出来ない日々、さらに、部員の殺人事件、部室の中がいったいどういう状態なのか、俺には全くわからない。部室の前に立つ。ドアの取っ手に手を伸ばす。
「ハイ、ハイ」
 中からは、小刻みな掛け声が響いてきた。
何をやっているのだろう。俺は、中では、部員の殺人事件の話題で持ちきりになっているのではと心配していたのだが、どうにも様子は違うようである。おれは、ドアを開けようとするが、おれの手がノブをすりぬける。
そうだった。俺には、今、何の力もないんだった。中の様子を知るためには、ここで待つしかないのか。
五分、十分……、三十分が過ぎたころ。ドアが開き、部員が一人中から出てきた。汗だくになっている。一体、何をやっているのだろう。ドアが開いたすきに俺は中に入った。
入った正面には、プロ野球選手のポスター、今年、東大を出てプロになった選手である。どこの高校の野球部の部室もプロ選手のポスターを貼ったりと、大体このような感じだろう。
 部室の中では、二人一組でゴロのキャッチングの練習をしていた。一人が相手の手が伸びるぎりぎりのところに左右交互にボールを投げ、相手は、それをキャッチして返すという練習である。いわゆるペッパーと呼ぶものである。一年生に入ってきたときにやらせる練習で、とても地味なものである。
それが、今、二年生、一年生、全員が狭い部室の中でやっている。
これは、いったい何なのか。