黄泉風がそう言った途端、荒々しい風が吹いた。
黄泉風は右手に持っている扇子で寒夜を扇ぐ。
その動きに倣うように、風が寒夜に遅いかかる。
寒夜は横に跳び、その風を避ける。
ふと、自分の隣にいた歪のことを思い出し、周りを見渡す。
歪はずいぶん離れた夜でも明るい街灯の下で、パソコンをしていた。
それならいい、と思い、目の前の黄泉風に向き直る。
「……わかってやっているのか?俺は“殺し屋”だ」
「わかっていますよ、そんなことは…」
一瞬、黄泉風の表情が曇った。
「だけど、それがどうしたと言うのです!私は…私はあの人がよければそれでいい!」
風はなおも寒夜に襲いかかる。
だけど、かすりすらしない。
「だからっ!だから私は――」
そこで黄泉風は言葉を詰まらせた。
寒夜は、ひどく冷たい表情で黄泉風を見ていた。
「……俺には、人を想う気持ちは分からない」
淡々とした声で、無表情で、寒夜は言う。
「だけど、嫌な感情じゃないって、歪が言ってた」
『人を想うっていうのはいいことだと思う。……まあ、想い方に違いはあるだろうけどな』
寒夜が腰の刀に手をかけた。
「……でも、お前の想い方ってなんか……違う気がする」
寒夜の目が赤く、鋭く輝く。