「うーん…どこだろ、ここ」


ここはどこかの森の中。
町をさまよい、さまよい、さまよった挙句、こうなった。


「人、いないかな……」

とりあえず、そこら辺を歩き回る寒夜。
当たり前に、誰もいない。


「どうしよ……」


頼りの携帯は圏外。

いくら森の中でも、下に行けば町に出られる。

そう思い、とりあえず下に向かって歩きだした。


少し歩いたところで、大きな岩に腰かけている長髪の女がいた。
和服を身に付け、扇子で自分を扇いでいる。


(助かった…)


そう思い、声をかけた。


「あの……」


女が声に気付き、ゆっくり振り返った。
幼い顔立ちな為、年上か年下かは分からない。

女は寒夜の姿を確認すると、にっこりと微笑んだ。


「……どういたしましたか?」


女が可愛らしい声で聞き返してきた。


「……道に迷って」

「こんな山奥で?それは大変ですね」


幼い容姿に似合わない、上品な話口調だった。


「あなた、お名前は?」

「人に名前を聞くときは自分から名乗るものだ」

「それもそうですね……私は黄泉風 雨美(ヨミカゼ ウミ)と申します」

「寒空 寒夜」

「寒そうな名前ですね」


扇子を口元にあて、笑う黄泉風はとても上品だ。


「どーでもいいから、道……」

「あぁ、そうでした!私としたことが……」


くすりと笑って、扇子を閉じ、寒夜の右側を示す。


「あちらに向かえば、登山客用の道があります。そこを下れば町に出れますよ」
「ありがとう」


短く礼を言って、黄泉風に背中を向けた。


「ふふ……どういたしまして……」


風が吹いて、黄泉風の髪を揺らした。




(黄泉風は妖しく、妖艶に微笑んだ)



a windy day...