答えを聞く前に、彼女の様子を見た瞬間に大体事情を察してはいた。

 最後に会ったのは二年前。人を変えるには充分な時間だったとしても、榮葉の面やつれは常軌を逸していた。余程辛い目にあったとしか思えない。豪奢な着物と宝飾品に今は身を包んでいるというのに、ここまで憔悴する理由はただ一つだろう。

「……婚約は破談になりました」

 心労。それしかない。

「この男のせいか」

 榮葉は答えなかったが、はらはらと頬を零れ落ちる涙が全てを物語っていた。

「くそっ!!」

 碩有は辺りを見回した。卓の上にあった魚介料理の為の串を手に取る。

 垂直に持つと、その手を扶慶の頭目掛けて振り下ろした。

「お止め下さい!」

 慌てて榮葉が止めに入る。

 普段からは想像出来ない程、彼は激昂していた。

「何故止める!? 今ならこいつを自殺に見せかけて始末する事も出来るのだぞ。私が其方を手放したのは、こんな畜生の自由にさせる為ではない!」

 振り上げられた腕を掴んだまま、榮葉は哀しげに笑う。

「そのお言葉は嬉しゅうございますが、貴方様の手を汚す価値もこの男にはありません。それに……親も親戚も、この街で生計を立てております。万一屋敷の者にでも知れたら、どうなるか!」

 ゆっくり手を下ろし、碩有は椅子に力なくくずおれた。卓に両肘を突き手で顔を覆う。

「……婚約者は、吏庚(しこう)殿はどうしたのだ。其方をあれ程望んでいたというのに」