「いやいや、御館様からその様なお言葉を頂けるとは。この扶慶、汗顔の至りでございます」

 酒で上気した顔ににやけ笑いを浮かべて「ささ、もっと召し上がってくださいませ」と料理を勧めた。

「美姫の酌も結構ですが、労をねぎらって私からも酒をお注ぎしましょう。──榮葉、瓶子を貸してくれるか」

 扶慶と客人の間を行き来していた娘はびくり、と肩を震わせた。彼は榮葉と視線を合わせ、小さく頷いてみせる。

 無言で差し出されたそれを受け取り、後ろ手に素早く朗世から紙包みを受け取り手の平に隠し持つ。

「いやはや、これは何と畏れ多くてとても……」

「まあそう言わず、ぐっと一気に飲んで頂きたいですね」

「そうですか、ではお言葉に甘えて」

 会話に紛れて包みを開いたので、扶慶の耳には何かがさらさらと瓶子の口に流れ込む音が聞こえなかった。言われるままに、並々と注がれた杯を仰ぐ。

 彼は酒も強い自負があると見えて、一瞬の内に飲み干してしまった。

「そうそう、先程の話ですがね」

 赤ら顔に愉悦の表情を浮かべる。

「瓊瑶は例えが違うのならば、鳥でしょう。『貴人鳥を愛でる』と歌人も申します故。飼い慣らされた鳥なれば、さぞかし良い声で啼(な)くのではありませんかな……」

 ガタン、と激しい音を立てて椅子が倒れた。

「碩有様! 落ち着いて下さい」