──だが。

「おや、これは失礼を致しました。玉なれば眺めるのみで摘むに非ずですかな──どちらにせよ、ご寵愛が深いというのは間違いない様で」

 苦笑混じりの扶慶に彼が殺意めいたものを覚えたその時、客間に使用人が料理を持って次々と現れた。

「ここは堪えて頂きますよ、碩有様」

「わかっている」

 小声でたしなめる朗世に同じく囁いた。

 どこからこれだけの食材を調達出来たのか、疑う程の料理が次々と運ばれて来る。海のもの山のもの、それらが芸術的な形に積みあがって皿に載っている。いずれもこの辺りでは珍しい料理や珍味ばかりだった。

 余りの豪華さに、二人とも絶句して仮初の賛辞すら浮かばなかった。

 ──貧乏な振りをすれば良いものを。愚かにも程がある、と。

 ようやく料理を捧げ持つ者の列が途絶えたかという頃、高台に瓶子と杯を載せた娘──榮葉が部屋に入って来た。

 彼女は卓の手前で膝を折り、膳を掲げたまま頭を垂れる。

「ようこそいらっしゃいました。ごゆるりと、おくつろぎくださいますよう」

 全く感情の窺えない声だった。

「おお、榮葉。こちらに来て、御館様に酌をして差し上げなさい」

 はい、と返事して彼女は碩有、朗世、扶慶と順に杯に酒を満たしていった。見るのは手元ばかりで、碩有に視線を合わせようとはしない。

 碩有も彼女を見なかった。代わりに朗世に目配せをする。

 己の部下が足元から扶慶の死角になる様に小さな紙包みを取り出すのを確認すると、碩有はにっこりと愛想笑いを浮かべた。

「流石は扶慶殿。かように桐の食が豊かであるから、領民より指示を得ているのでしょうね。素晴らしい」