扶慶からの説明を受けつつも、碩有達は一通り施設を見て回った。

 事前に浮かんだ疑問を裏付ける様な設備の老朽化。

 例え今日明日清掃した所で、広大な工業地帯全ての体裁を整えるのは不可能に近い。それをさも誇らしげに、町長は己の管理を説明している。

「御館様、今晩はこちらにお泊まり頂けるのでしょう? 歓迎の酒席を設けてございますよ」

 紡績に次いで車、装飾品と工場を立て続けに見た後車に乗り込もうとした碩有に扶慶は申し出た。

「お気遣い有難く思います。ですが、此処には二日の滞在を予定しております。宿を提供して頂くだけで充分ですよ」

 愛想笑いで辞退する主に「そう仰らず、この町にも良い酒がございましてな」と彼は食い下がった。

「御館様は何年か前にこの町にご逗留なさった事がございますでしょう。私はその頃お会いする機会は叶いませんでしたが、旧交を暖めるべき懐かしい方もおられるのではありませんか」

 ぴくり、と碩有の眉が動いた。

 叶うも何も、先代のみを畏れ跡継ぎの若造などと歯牙に掛けなかっただけではないだろうか。

 少なくとも今までの扶慶のその様な言動は、園氏によって逐一彼に報告されていた。

「……そうですね。ではご相伴に与りましょうか」

 扶慶のたるんだ丸顔が喜びに明るくなった。