一瞬の出来事だった。翠玉を横抱きに抱え上げると、碩有は房を奥へと大股で突っ切る。寝台の上に妻のその身体を投げ出した。

「ち、ちょっと、待ってください。落ち着いて──」

 常にない様子に恐怖さえ覚え、夫の身体に手を当てて何とか押し戻そうとする。が、びくとも動かない。

 灯火の届かない寝室は薄暗く、碩有の下に組み敷かれた翠玉に闇が訪れた。

 不穏な気配の、闇。

「それとも──最初から、祖父の妾として扱えば良かったのか」

 呻く様に吐息と共に吐かれた言葉は、翠玉には死刑の宣告の様に聞こえた。