「西条さん。」


急に話し掛けられてアタシは思わず手からカップを落としそうになる。


「な、なんですか?」
「これから暇かい?」
「ぇ、えぇ・・・。」


「映画でも見に行かないか?」


先生はそう言ってアタシの目を捕らえる。
にっこりと笑う先生の笑顔は眩しくて、でも優しくて、素直に綺麗だった。


「んぁ・・・えっと・・・。」
「僕と見に行くのは嫌かい?」


「えっと・・」返事に困っているとアタシの携帯が鳴った。
慌てて取り出すとディスプレイには【家】と表示されていた。


「失礼します。」


先生に断ってからアタシは少し遠くに行って電話に出る。


「もし・・もし?」
『奈々?』
「優。」
『先生どこ?俺今家でスタンバってるんだけど。』
「喫茶店にいるんだけど・・・」
『どうかした?声。』
「実は・・・」


今までのいきさつを話すと向こう側で優が大きく息を吐いた。


『なんだ!行っておいでよ。』
「え?」
『俺は家でゆっくりしてくるから、映画くらい見ておいで。』
「いや、でも・・・。」
『ここで断わったら変だろ?変に怪しまれたりしたら大変だし、行っておいで。』
「優・・あの・・。」
『なんかおいしいお土産買ってきてね』


―――ブツッ


切れた。

電話の向こうの優は明るくて。



なんか切ない。