右隣を歩く蓮を見上げる。


「香水、つけてる?」

「香水、ですか」

「うん。蓮って、いつも良い匂いがするから」

「……」



ん?



何気なく、何の変哲もない言葉を発しただけなのに。



蓮が、止まってる。




"止まってる"という表現が一番しっくりくる。
無表情のまま、目を大きく開けて、立ち止まってる。


「蓮?」



私…気にさわるようなこと言ったかな?

「あ……いえ。ありがとうございます」
取り繕うように薄く微笑む。


「私、変なこと言った?」

不安になって、確認のために聞いてみる。

「いいえ。むしろ逆ですから」

「逆?」



「ええ。この香水、実は……」



少し目を細めて、悲しそうな、寂しそうな、それでいて嬉しそうな。
蓮はなんとも言えない表情を浮かべる。


「……、形見なんです」

「え?」


形見?

もしかして、お母さんの…?



「真央さんに話してませんでしたね。でも、父と僕しかいないということは……大体予想がついていたと思います」


「……う、ん」


そりゃあね。私も同じ様な感じだし。


「蓮」

でも。
これは蓮が話したいことなのかな。


「もし、話したくないなら、無理に話さなくていいからね?」


さっきの蓮の表情が頭に浮かぶ。




蓮は心配する私を見てクスリと笑った。

「優しいんですね、真央さんは。でも、これは僕が真央さんに話さなければいけないことなんです」


話さなければいけない?

私に関係があるの?


「聞いて、くれますか?」


「……うん」