「ママ……」





パチリと目を開ければ、有名な絵画が飾られた壁が目に入る。
現実、だ。

つい、ママの涙が落ちた頬を触る。でも、当たり前だけど、頬は濡れていなかった。


嫌な、夢。



軽く憂鬱な気分でいると、誰かの足音が聞こえてきた。









「真央ちゃん」


その足音は、ママ。
ついさっきまで、夢の中で泣きじゃくってた人。




「ママ。何であの人を憎んじゃいけないの」

「え?」

「何でママを憎まなくちゃいけないの」
「……」

ママは私をしばらくの間見つめた後、ゆっくりと動き出して、向かいのソファに座った。


「覚えてたのねぇ」

柔らかく微笑みながら言うママに、眉をひそめる。

「……」
「ふふ。色々な疑問があるようね」
目の前に座る人は、いつものハイテンションとは違って、落ち着いた雰囲気を纏っている。
「……何で、何で、あの人を憎んじゃいけないの。何で、ママはあの人を庇うの」

「庇ってる訳じゃないのよ?ただ……ちゃんと分かって欲しいだけよ」

「だってあの人は、ママと私を……」


「そう、捨てたわ」
睫毛を伏せて、事もなげにサラリと告げる。

「赤ちゃんができたって報告したら、酷いこと言われて捨てられたわ」

「じゃあ、何で」

何で、憎んじゃいけないの?


分からない私を見て、微笑むママ。

「ねぇ真央ちゃん。よく考えてみて?」
「え?」

「圭介は、私に最高のプレゼントをしてくれたのよ?」

プレゼント?