―――真央ちゃん





―――真央ちゃん




誰?


ボヤボヤした視界。
これはおそらく夢の中。


誰かが、私を抱き締めてるの、かな?


体に感じる、温かくて柔らかな感触に、そう思った。



――真央ちゃん……ごめんね。ママが悪いから……全部ママのせいだから。




この声は、ママ?

頬にポタリと落ちたものは……

涙。



――憎むなら、私を憎んで。圭介は、何も悪くないから。妊娠した私が悪いから。




圭介。


この世で一番、聞きたくなかった


思い出したくなかった

父親の、名。


鈴木圭介。
そういえばそんな名前だった。



―――だから、責めるならママを責めて。嫌うならママを嫌って……。



すがり付くように。
何度も、何度も。

ママは"圭介は何も悪くない"と言う。



…………そうか、


これはきっと

赤ん坊のときの、私の記憶だ。




――圭介のこと、嫌いにならないで。



どうして。



どうして?


あの人は、ママを捨てたのに。
私がお腹にいるからって、ママと私を捨てたのに。


あいつを憎まないで、ママを憎むなんて


おかしいよ…。



泣きじゃくりながら"圭介は悪くない"と訴え続けるママに、おかしいと叫びたいのに。

私の声は、赤ん坊の声で。

意味の無い、訳の分からない言葉しか発せられなくて。


苛ついているうちに、段々と現実に戻っていくのが分かった。


まだ、戻らないで。


ママに伝えなきゃ


おかしいって伝えなきゃいけないの……


お願い…