「紫」




帰りのホームルームが終わり


真っ先に、紫に声を掛けた。



「あの……帰ろ?」


紫は一瞬驚いた顔をしたけれど


すぐにいつもみたいに微笑んでくれた。



「ええ。行くわよ」


紫の長い黒髪に引かれるように、後についていく。






生徒が往来する中を、堂々と歩いていく彼女を見て、


なんだか



思いきり

甘えそうになった。







「真央」



不意に




気がついたら、紫が振り向いて私を見ていた。


ああ。綺麗だなあ。

なんて思いながら、紫を見る。




「大丈夫?今……情けない顔してたわよ」

「え、ごめん」

「謝らないで。やっぱり真央、おかしい。いつもは言い返してくるのに」



おかしい?




うん、そうかもね。






だって私、




今を生きてる感覚が、無いもん。






これは、



誰のせい?








「おかしいよ、私」

微笑むと、紫は眉間に皺を寄せる。


「おかしいんだ。おかしい……蓮がいなくなるなんて、おかしいよ…!」






「……え?」





ピタリと止まる紫に、私もならって止まる。


往来の激しい廊下だから、私達は大分浮いているんだろう。



でもそんなこと、どうでもよかった。




「真央、いなくなるって?どういうことよ」



「いなくなっちゃうの……離れちゃう、一生会えなくなるかもしれないの」



「真央…?」




「蓮は、私を……」









幸せに、してくれないんだ。












そう呟いた途端、





顔がひきつって




目から、涙が溢れ出した。






あんなに、






あんなに泣いたのに




まだ、足りないの?