真央さんの泣き声が、





壁を隔てて





僕の耳に微かに届いた。






大切な人を悲しませている。





その事実に、





自分に、絶望する。






こんな薄っぺらい、壁という障害なんて今すぐ壊して





真央さんの体を





この胸に包み込んでしまいたい。








僕だって、あなたに負けないくらい



ずっと、ずっと前から





真央さんが好きで




今でも愛していると



伝えたい。






そんな衝動に、何度もかられた。




準備を進める手が





何度も、震えた。







でもここであなたと離れなければ




僕は一生、離れられなくなる。



ずっと側で、あなたの笑顔を見たくなってしまうから。




突き放さなければならなかった。




だから




名前なんて、言われるまで呼べなかった。





真央さん、と呼んでしまえば




きっと、僕は……。
























真央さんとの思い出の品に目を向けると



鼻の奥がツン、と痛くなって



どんどん、視界が霞んでいくものだから……






困りましたね。



これでは、準備が進まないじゃないですか。


旅立てなくなってしまうじゃないですか。






もう覚悟は決めたはずなのに。


次々溢れ出す涙に、自分の本心を悟るけれど……


でも、僕は、



真央さんと一緒にはいられない。








震える腕で、真央さんとの思い出を抱き締めながら






世界で一番、








あなたが好きです、と







壁の向こうのあなたに





何度も、




心の中で、伝えた。

















『たわけ者!!』