「……来週、アメリカへ行きます」
そう言われた途端、カッと目が熱くなった。
ああ。
いなくなっちゃうんだ。
涙を堪えながら、ただそれだけを考えた。
――父さんの会社の本社があるんです。
――アメリカの高校に通いながら何年かはそこで…
蓮の声が、耳に入らない。
ほんとに行っちゃうんだね。
離れるんだね。
私を幸せにはしてくれないんだね……。
淡々と話す蓮の声を
聞きたくなかった。
最後かもしれないのに
何も、聞きたくない。
蓮が遠くに行く話なんて
現実とも思いたくなかった。
「ねぇ、蓮」
「はい」
「最後にお願いしてもいい?」
「……はい」
抱き締めてとも
キスも
愛の言葉も
おねだりしないから
「もう一回だけ、名前を呼んで?」
普段みたいに
抑揚のない声で
真央さん、って
それだけでいい。
その言葉さえあれば
蓮がいつでも側にいるような気になれるから。
何にも変わらない、日常なんだと思い込めるから。